アイルランド留学を考え始めたとき、そのユニークな魅力に惹かれる一方で、「実際のところどうなんだろう?」という疑問も湧いてくるのではないでしょうか。インターネットで情報を集める中で、アイルランド留学の輝かしいメリットやいいところは目にするものの、見過ごされがちなデメリットや悪いところ、そして現地で本当に気を付けることについて、深く知りたいと感じている方も少なくないはずです。
また、留学計画で最も気になる費用や、今の自分の英語力のレベルで挑戦できるのか、どの語学学校を選べば良いのかといった具体的な悩みもあるでしょう。さらに、学生としてだけでなく、ワーホリでの滞在や、卒業後の移住の可能性まで視野に入れると、必要な情報は多岐にわたります。
この記事では、そうした皆様の疑問や不安に寄り添い、アイルランド留学のメリット・デメリットを多角的な視点から解説していきます。
- アイルランド留学における具体的なメリットとデメリット
- 都市や語学学校の選び方と現実的な留学費用
- ワーホリや卒業後の移住といった長期滞在の選択肢
- 安全で充実した留学生活のために現地で気を付けること
アイルランド留学のメリット・デメリットを解説

- アイルランドのメリットやいいところ
- アイルランドのデメリットや悪いところ
- 魅力あふれるアイルランドの文化と言語
- 高騰する物価と留学に必要な費用目安
- 生活で気を付けること(治安・気候)
アイルランドのメリットやいいところ
アイルランドへの留学には、他の英語圏の国々とは異なる多くメリットが存在します。これらを理解することは、留学先を決定する上で非常に有益な判断材料となります。
まず最大の利点として挙げられるのが、日本人比率の低さです。海外留学協議会(JAOS)の2024年の調査によれば、アイルランドを留学先に選んだ日本人は全体のわずか0.60%に過ぎません。これは、現地の語学学校でも日本人比率が平均5%程度と報告されていることからも裏付けられます。必然的に英語を使わざるを得ない環境に身を置くことで、言語習得のスピードは格段に上がります。さらに、留学生の多くはヨーロッパ諸国から集まっているため、北米やオセアニアとは異なる文化的多様性に触れられるのも、国際感覚を養う上で大きな価値があります。
次に、世界的に評価される質の高い教育へのアクセスが挙げられます。アイルランド政府が国民の大学までの授業料を無料化している事実は、国全体で教育に深く投資している証左です。大学では教授と学生の距離が近く、対話や議論を重視する参加型の授業が展開されます。この優れた教育システムが、GoogleやAppleといったグローバル企業がヨーロッパ本社を置く理由の一つであり、留学生は世界のトップ企業が求めるレベルの教育を受ける機会を得られます。
加えて、学生ビザでも就労が許可されている点は、留学生にとって大きな恩恵です。3ヶ月以上のコースに在籍する学生(Stamp 2ビザ)は、学期中に週20時間、指定の休暇期間中は週40時間まで働くことが認められています。これは、高騰する生活費を補う経済的な助けになるだけでなく、現地の労働環境で実践的な英語を使い、地域社会に溶け込むための貴重な機会となるでしょう。
そして、ヨーロッパ大陸への玄関口という地理的利点も見逃せません。格安航空会社(LCC)を利用すれば、週末にロンドンやパリへ数千円で旅行することも可能です。特にイギリスとの間には共通旅行区域(CTA)があり、パスポート一つで気軽に行き来できるため、留学生活にさらなる彩りを加えることができます。これらの点から、アイルランドは単なる語学留学先にとどまらない、多面的な価値を提供してくれると考えられます。
アイルランドのデメリットや悪いところ

アイルランド留学が持つ多くの魅力の裏側で、現実的な課題や困難も存在します。これらを事前に把握し、対策を考えておくことが、後悔しない留学計画の鍵となります。
最大のデメリットは、間違いなく生活費の高さ、特に首都ダブリンにおける深刻な住宅危機です。ダブリンはヨーロッパで9番目に物価の高い都市とされ、その中心にあるのが住宅問題です。2025年のデータでは、ダブリン中心部の1ベッドルームアパートの平均家賃が月額€1,956(約30万円以上)に達するなど、学生が一人暮らしをすることは経済的に極めて困難です。そのため、多くの学生はフラットシェアやホストファミリーとの同居を余儀なくされます。この問題は、滞在都市の選択やライフスタイルを規定する最も重要な要素と言えます。
次に、アイルランド特有の気候も、人によっては大きな挑戦となるかもしれません。「一日に四季がある」と形容されるほど天気は変わりやすく、年間を通じて冷涼で曇りや雨の日が多いです。日本のようなはっきりとした四季や、夏の高い気温に慣れている人にとっては、日照時間の短さや続く霧雨が精神的に影響を与える可能性も考慮しておく必要があります。
また、言語的な側面も無視できません。アイルランドで話される英語は、アイルランド・ゲール語の影響を強く受けた独特のリズム、発音、語彙を持ちます。標準的なアメリカ英語やイギリス英語に慣れ親しんだ学習者にとって、最初のうちは聞き取りに相当な困難を感じるかもしれません。これは乗り越えるべき壁であると同時に、マスターすれば高い言語適応能力の証明にもなりますが、初期のコミュニケーションで苦労する点はデメリットとして認識しておくべきでしょう。
最後に、日本からの地理的な遠さも挙げられます。日本からアイルランドへの直行便はなく、ヨーロッパや中東の主要都市で最低1回の乗り継ぎが必要です。渡航に時間と費用がかかるため、一時帰国が容易ではない点は、留学生活を送る上での心理的な負担となり得ます。
魅力あふれるアイルランドの文化と言語

アイルランドでの留学は、単に英語を学ぶだけにとどまらず、何千年もの歴史を持つケルト文化と、それから派生した現代のユニークな言語や習慣に深く触れる体験です。
アイルランド文化の根底には、古代ケルトの伝統が色濃く残っています。例えば、世界中で祝われるハロウィンの起源は、古代ケルトの収穫祭「サウィン」にあります。また、妖精や巨人が登場する民間伝承は今なお語り継がれており、国のいたるところに点在するストーンサークルなどの古代遺跡とともに、神秘的な雰囲気を醸し出しています。
日常生活に目を向けると、アイリッシュ・パブが文化の中心的な役割を果たしていることが分かります。パブは単に飲酒する場所ではなく、年齢や階級に関係なく人々が集い、会話や音楽を楽しむ社交の場です。「クラック(craic)」と呼ばれる「楽しい時間や会話」を何よりも大切にする国民性が、パブ文化を支えています。
言語の面では、公用語である英語が主流ですが、その英語は「ハイバーノ・イングリッシュ」と呼ばれる独自の特徴を持っています。これは、かつてアイルランド語(ゲール語)を母語としていた人々が英語を話すようになった歴史に由来し、アイルランド語の文法や語順のルールが英語の語彙に適用されたものです。例えば、アイルランド語には「はい/いいえ」という単語がないため、質問で使われた動詞を繰り返して返事をします(例:「Are you coming?」→「I am.」)。これは「間違った英語」ではなく、体系的なルールを持つ明確な方言です。初めは戸惑うかもしれませんが、この言語的背景を理解することで、アイルランド人とのコミュニケーションはより深いものになります。
道路標識や公共交通機関のアナウンスが英語とアイルランド語で併記されているのも、この国の言語文化を示す風景です。このように、アイルランドの文化と言語は、留学生活のあらゆる場面で発見と学びに満ちた、かけがえのない経験を提供してくれます。
高騰する物価と留学に必要な費用目安

アイルランド留学を計画する上で、最も現実的に向き合う必要があるのが費用です。特に首都ダブリンの物価はヨーロッパでもトップクラスであり、予算計画が留学の成否を左右すると言っても過言ではありません。
まず学費ですが、非EU圏の留学生の場合、大学の学士課程で年間€10,000から€30,000、修士課程では年間€10,000から€35,000程度が目安となります。語学学校の場合は、1ヶ月あたり約€1,250(約20万円)が一つの基準です。
しかし、学費以上によく考慮すべきなのが生活費です。前述の通り、ダブリンの住宅危機は深刻で、これが生活費を高騰させる最大の要因となっています。Numbeoのデータによれば、ダブリンでの単身者の月間生活費は家賃を除いても€1,000を超えることがあり、これに高額な家賃が加わります。
この状況を乗り切るためには、いくつかの戦略が考えられます。
都市の選択による費用抑制
生活費は都市によって大きく異なります。以下の表は、ダブリンと他の主要都市の生活費を比較したものです。家賃が比較的安価なコーク、ゴールウェイ、特にリムリックなどを検討することは有効な選択肢となります。
項目 | ダブリン | コーク | ゴールウェイ | リムリック |
---|---|---|---|---|
単身者の月間生活費(家賃込) | €2,497 – €2,627 | €2,127 – €2,275 | €2,066 – €2,297 | €1,799 – €1,969 |
シェアハウスの平均家賃(月額) | €900 – €1,200 | €900 – €1,100 | €800 – €1,000 | €800 – €1,000 |
注:数値は情報源や時期により変動します。
実践的な節約術
日々の生活においても、賢い工夫で出費を抑えることが可能です。
外食は高価なため、自炊を基本とすることが大切です。食料品の購入は、TescoやDunnes Storesといった一般的なスーパーマーケットだけでなく、LidlやAldiといったディスカウントスーパーを利用すると大幅に費用を削減できます。
交通費については、学生割引が適用される「Student Leap Card」の取得が必須です。これにより公共交通機関を割引価格で利用できます。また、短距離の移動は徒歩や中古自転車の購入を検討するのも良い方法です。
このように、都市選びと日々の工夫を組み合わせることで、高騰するアイルランドの物価に対応し、充実した留学生活を送ることが可能になります。
生活で気を付けること(治安・気候)

アイルランドでの留学生活を安全で快適なものにするためには、現地の治安状況と特有の気候について正しく理解しておくことが不可欠です。
治安 – マクロな安全とミクロなリスク
アイルランドの治安について語る際、まず触れられるのが世界平和指数(Global Peace Index)です。2024年のランキングで世界第2位と、日本の17位を大きく上回っており、国全体としては非常に安全で平和であることは間違いありません。大規模な紛争やテロのリスクは低く、安心して暮らせるマクロな環境が整っています。
しかし、この高い評価が日々の生活における安全を完全に保証するわけではない点に注意が必要です。アイルランド警察(An Garda Síochána)や中央統計局(CSO)のデータを見ると、異なる側面が浮かび上がります。例えば、近年、窃盗や詐欺といった犯罪が増加傾向にあります。特に、2025年第1四半期には詐欺犯罪が前年同期比で61%も急増しており、これは留学生が直面しうる現実的なリスクです。
在アイルランド日本国大使館も、ダブリンのテンプルバーやグラフトンストリートといった観光客が多いエリアでのスリ、置き引き、スマートフォンなどのひったくりに注意を促しています。また、警察や移民局を装った巧妙な電話詐欺も報告されており、特に非英語話者が標的とされやすい傾向があります。したがって、「治安が良い国だから」と油断せず、貴重品の管理を徹底し、不審な連絡には応じないといった自己防衛の意識を持つことが大切です。
気候 – 予測不能な天気への備え
アイルランドの気候は、その変わりやすさで有名です。晴れていたかと思うと急に雨が降り出すことは日常茶飯事で、年間を通して気温は比較的低いまま推移します。
この気候に適応するためには、服装の工夫が鍵となります。脱ぎ着しやすい上着を重ね着するレイヤードスタイルが基本です。また、急な雨に備えて、防水性・防風性のあるジャケットは一年中活躍します。折り畳み傘も便利ですが、風が強い日も多いため、フード付きのアウターの方が実用的な場面もあります。
精神的な備えも必要かもしれません。日照時間が短く、曇り空が続く季節は、気分が落ち込みやすくなる人もいます。天気の良い日には積極的に外に出て日光を浴びたり、室内で楽しめる趣味を見つけたりと、自分なりの気分転換の方法を見つけておくことが、気候と上手に付き合っていくコツと言えるでしょう。
アイルランド留学のメリット・デメリットを踏まえた計画

- 自分に合う留学先の都市はどこ?
- 最適な語学学校の選び方とポイント
- 留学に必要な英語力のレベルとは?
- 賢い留学エージェントの活用方法
- ワーホリ制度を利用した滞在プラン
- 卒業後のキャリアと移住への道筋
自分に合う留学先の都市はどこ?
アイルランド留学の満足度は、滞在する都市によって大きく変わります。それぞれの都市が持つ独自の個性、生活費、雇用機会を理解し、自身の目的やライフスタイルに合った場所を選ぶことが、計画の第一歩となります。
最大の都市ダブリンは、経済と文化の中心地であり、トップ大学やグローバルIT企業が集積しています。仕事の機会や文化的な刺激は最も多いですが、前述の通り、生活費、特に家賃は国内で最も高額です。活気ある大都市での生活を望む人には魅力的ですが、予算との兼ね合いが最大の課題となります。
アイルランド第2の都市コークは、「食の都」としても知られ、ダブリンよりはコンパクトで落ち着いた雰囲気です。しかし、製薬・IT産業のハブでもあり、活気と雇用の機会は豊富にあります。ダブリンよりも生活費を抑えつつ、都市の利便性も享受したいというバランスを重視する人に向いています。
西海岸に位置するゴールウェイは、ボヘミアンな雰囲気を持つ文化的な都市です。伝統音楽やアートシーンが盛んで、周囲には壮大な自然が広がっています。強いコミュニティ意識とフレンドリーな雰囲気で人気が高いですが、その人気ゆえに住宅を見つけるのが困難な場合があります。文化的な体験や人との交流を重視する人には最適な環境でしょう。
そしてリムリックは、主要都市の中で最も生活費が手頃な選択肢です。歴史的な街並みを持ちつつ、近年は再開発が進み活気づいています。リムリック大学は産業界との結びつきが強く、実践的な学びを求める学生に評価されています。費用を最大限に抑えたい学生や、落ち着いた環境で学びたい人にとって有力な候補となります。
以下の表は、これらの都市を項目別に比較したものです。ご自身の優先順位と照らし合わせながら、最適な都市を見つけてください。
項目 | ダブリン | コーク | ゴールウェイ | リムリック |
---|---|---|---|---|
雰囲気 | 大都市・活発 | 活気・社交的 | 文化的・ボヘミアン | 歴史的・再開発中 |
生活費 | 最も高い | 高い | 中程度 | 最も手頃 |
主要産業 | IT, 金融 | 製薬, IT | 医療機器, 文化 | テクノロジー, 製造 |
主要大学 | TCD, UCD, DCU | UCC | University of Galway | UL |
最適な語学学校の選び方とポイント

アイルランドでの語学留学を成功させるためには、自分自身の学習目標と予算に合致した語学学校を選ぶことが極めて大切です。数多くある学校の中から最適な一校を見つけ出すための、いくつかの重要なポイントを解説します。
まず確認すべきは、その学校がアイルランド政府から品質を認められているかという点です。ACELS (Accreditation and Coordination of English Language Services) という機関による認定は、教育の質、施設、学生サポートなどが一定の基準を満たしていることの証明となります。認定校のリストから学校を選ぶことは、質の高い教育を受けるための第一歩です。
次に、具体的なプログラム内容を比較検討します。一般英語コースだけでなく、IELTSやケンブリッジ英検といった試験対策コース、ビジネス英語コースなど、学校によって特色があります。自分の目的が何であるかを明確にし、それに合ったカリキュラムを提供している学校を探しましょう。その際、一週間の授業時間数や、一クラスあたりの最大生徒数も重要な比較項目です。少人数制のクラスは、発言の機会が多く、より集中的な学習が期待できます。
国籍比率も考慮に入れるべき点です。ヨーロッパからの学生が多い学校、南米からの学生が多い学校など、学校ごとに国籍の偏りがあります。特定の国籍の生徒が固まっていると、校内で母国語が使われがちになる可能性もあります。できるだけ多様な国籍の学生が集まる学校を選ぶことで、国際的な交流が促進され、英語学習の面でも良い環境が生まれます。
もちろん、費用も大きな判断基準です。授業料だけでなく、入学金や教材費といった諸費用を含めた総額で比較することが求められます。立地も費用に関連し、一般的に市内中心部にある学校は、郊外の学校に比べて授業料が高い傾向にあります。
これらのポイントを総合的に検討し、いくつかの候補校のパンフレットを取り寄せたり、ウェブサイトを熟読したりすることで、自分にとって最も良い学習環境が見つかるはずです。
留学に必要な英語力のレベルとは?

アイルランドへの留学を考える際、特に大学や大学院への進学を目指す場合には、自身の英語力がどの程度必要になるのかを正確に把握しておく必要があります。入学許可を得るためには、各教育機関が定める英語能力の基準をクリアしなければなりません。
アイルランドの大学が最も広く受け入れている英語能力試験は、IELTS(アイエルツ)とTOEFL iBT(トーフル)です。どちらのスコアが必要か、またその基準点は大学や学部、コースによって異なります。一般的に、トップレベルの大学ほど高いスコアが要求される傾向にあります。
例えば、IELTSの場合、ほとんどの大学の学部・大学院コースで、総合スコア6.5以上が最低ラインとされることが多いです。一部の大学やコースでは6.0で受け入れられる場合もありますが、これは例外的と考えた方が良いでしょう。一方、学生ビザ自体の申請要件はIELTS 5.0以上とされていますが、これはあくまでビザ取得の最低条件であり、大学の入学基準とは全く異なることを理解しておく必要があります。
TOEFL iBTの場合、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(UCD)やダブリンシティ大学(DCU)などでは90点以上、アイルランド最古の大学であるトリニティ・カレッジ・ダブリン(TCD)では88点から90点以上を要求することが一般的です。
以下に、アイルランドの主要大学が求める英語能力スコアの目安をまとめました。これはあくまで一般的な指標であり、志望するコースの正確な要件は、必ず各大学の公式ウェブサイトで最新情報を確認してください。
大学名 | QS世界大学ランキング2025 | 最低IELTSスコア (目安) | 最低TOEFL iBTスコア (目安) |
---|---|---|---|
トリニティ・カレッジ・ダブリン (TCD) | 87 | 6.5 | 88-90+ |
ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン (UCD) | 126 | 6.5 | 90+ |
ユニバーシティ・カレッジ・コーク (UCC) | =273 | 6.5 | 90+ |
ゴールウェイ大学 (University of Galway) | =273 | 6.5 | 88+ |
ダブリンシティ大学 (DCU) | =421 | 6.5 | 92+ |
リムリック大学 (UL) | =421 | 6.5 | 90+ |
これらのスコアは、留学準備の具体的な目標設定に役立ちます。目標スコアに達していない場合は、まず日本国内や現地の語学学校で集中的に学習し、基準をクリアすることを目指す計画が必要になります。
賢い留学エージェントの活用方法

アイルランド留学の準備を進めるにあたり、留学エージェントの利用を検討する人は少なくありません。エージェントは複雑な手続きを代行してくれる心強い存在ですが、その役割と費用を正しく理解し、賢く活用することが大切です。
留学エージェントを利用する最大のメリットは、学校選定からビザ申請、滞在先の手配といった一連の煩雑なプロセスを専門家のサポートを受けながら進められる点にあります。特に初めての海外留学で何から手をつけて良いか分からない場合、時間と精神的な負担を大幅に軽減できます。また、現地オフィスを持つエージェントであれば、渡航後にトラブルが発生した際のサポートも期待できます。
一方で、デメリットや注意点も存在します。当然ながら、サポートには費用がかかります。一部のエージェントでは、最初に提示される見積もりが安く見えても、後から様々なオプション料金が加算されるケースもあるため、契約前にはサービス内容と費用の内訳を詳細に確認することが不可欠です。
エージェントには「無料」と「有料」のタイプがあります。無料エージェントは、提携している語学学校から紹介手数料を得ることで運営されています。そのため、紹介される学校の選択肢が提携校に限定される可能性を理解しておく必要があります。対して、有料エージェントは相談者からカウンセリング料を受け取るため、より中立的な立場から幅広い選択肢を提案してくれる傾向があります。どちらが良いかは、自身の状況や求めるサポートの範囲によって異なります。
信頼できるエージェントを選ぶためには、いくつかの基準があります。まず、JAOS(海外留学協議会)やJ-CROSSといった公的な認証団体に加盟しているかは、一つの信頼性の指標となります。また、アイルランド留学に関する具体的な実績が豊富であるかを確認することも大切です。複数のエージェントからカウンセリングを受け、見積もりを比較検討し、最も信頼できると感じたパートナーを選ぶことが、後悔のないエージェント選びに繋がります。
以下では目的に合ったサポートの選び方について詳しく解説しています。

ワーホリ制度を利用した滞在プラン

アイルランドでの長期滞在を考える際、学生ビザでの留学とは別に、「ワーキングホリデー」という魅力的な選択肢があります。これは、観光を主目的としながら、滞在資金を補うための付随的な就労が認められる制度です。
この制度は、申請受理時点で18歳から30歳までの日本国籍者が対象で、最長1年間の滞在が許可されます。日本国籍者に対する年間発給枠は800名と定められています。学生ビザとの大きな違いは、就労に関する柔軟性です。ワーキングホリデーの滞在者は、週39時間までのフルタイムに近い形での就労が可能です。これは、学期中は週20時間に制限される学生ビザと比べて、より多くの収入を得られる可能性があることを意味します。
そのため、ワーキングホリデーは「学ぶ」ことよりも、「働きながら生活し、文化を体験する」ことに重きを置く人に適しています。例えば、語学学校に短期間通って基礎的なコミュニケーション能力を身につけた後、パブやカフェ、ホテルなどで働き、実践的な環境で英語力を磨きながらアイルランド全土を旅する、といったプランが考えられます。
申請プロセスは、学生ビザとは異なり、事前の準備が必要です。通常、年に2回(例年1月と7月頃)設定される申請期間中に、Eメールで申請意志を表明し、その後、指定された場所に必要書類を提出するという手順を踏みます。定員があるため、希望の時期に渡航するためには、大使館のウェブサイトで最新の募集要項を常に確認し、計画的に準備を進めることが求められます。資金証明(50万円以上)や医療保険への加入も必須条件です。
ワーキングホリデーの申請や準備が不安な方におすすめのサポートについては以下でも紹介しています。

卒業後のキャリアと移住への道筋

アイルランド留学の真価は、質の高い教育を受けられることだけでなく、その先のキャリアパス、さらには移住への道筋が整備されている点にもあります。アイルランド政府は、国内で学んだ優秀な留学生に活躍してもらうための、戦略的なビザ制度を設けています。
その第一歩となるのが、「サードレベル大学院生プログラム(Third Level Graduate Programme)」、通称Stamp 1Gです。これは、アイルランドの大学・大学院を卒業した非ヨーロッパ国籍の学生が、卒業後に国内に留まって就職活動を行うことを許可する、いわゆる「ステイバックビザ」です。学士号(レベル8)取得者は最長12ヶ月、修士号・博士号(レベル9以上)取得者は、更新を含め最長24ヶ月間の滞在が許可されます。この期間中、卒業生は別途就労許可なしでフルタイム(週40時間)働くことができるため、雇用主にとって非常に採用しやすい人材となります。
このStamp 1Gは、長期的な就労への「橋渡し」として機能します。この期間中に、自身の専門性を活かせる職を見つけ、次に目指すのが「クリティカルスキル就労許可(Critical Skills Employment Permit, CSEP)」です。これは、IT、工学、科学、金融、医療といった、アイルランド国内で人材が不足している高度技能職を対象とした就労許可です。これらの分野の多くは、アイルランドの大学が強みを持つ学問領域や、現地に拠点を置く多国籍企業のニーズと合致しています。したがって、需要の高い分野を戦略的に選んで学ぶことは、政府が後押しするキャリアパスに乗ることを意味します。
CSEPを取得して2年間就労すると、さらに長期的な居住と就労の自由度が高い「Stamp 4」という滞在許可を申請する資格が得られます。Stamp 4を取得すれば、特定の雇用主に縛られることなく、どの職業にも就くことができ、起業も可能になります。これは将来的なアイルランド市民権取得への道における重要なマイルストーンであり、アイルランド留学が、ヨーロッパでのキャリアと人生を築くための入場券となり得ることを示しています。
以下の表は、留学から移住へのステップを示すビザ制度の概要です。詳しい内容や最新情報については政府等の公式サイトでご確認ください。
許可/スタンプ | 目的 | 就労権利 | 期間 | 次のステップ |
---|---|---|---|---|
学生ビザ (Stamp 2) | フルタイムの就学 | 週20時間まで(休暇中は40時間) | コース期間 | 卒業 |
ワーキングホリデー | 休暇と文化体験 | 週39時間まで | 最長1年 | 帰国または別ビザへ |
大学院生プログラム (Stamp 1G) | 卒業後の就職活動 | 週40時間まで(許可不要) | 12ヶ月または24ヶ月 | CSEP等の就労許可取得 |
クリティカルスキル就労許可 (CSEP) | 高度技能職での就労 | 許可された職種でフルタイム | 最長2年(更新可) | Stamp 4の申請 |
長期居住許可 (Stamp 4) | 長期的な居住と就労 | 制限なし | 通常更新可 | 市民権申請の可能性 |
総括:アイルランド留学のメリット・デメリット
この記事では、アイルランド留学を検討する上で不可欠な情報を、メリット・デメリットの両面から多角的に解説してきました。最後に、本記事の要点をまとめます。
- アイルランドは日本人が少なく英語学習に理想的な環境が整っている
- 学生ビザでも就労が許可されており経済的な負担を軽減できる
- 世界的に評価の高い教育をヨーロッパの多様な学生と共に受けられる
- ヨーロッパ各国へ安価かつ手軽に旅行できる地理的利点がある
- 最大の課題は首都ダブリンを中心とした生活費、特に家賃の高騰
- 深刻な住宅事情から滞在都市の選択が留学計画の鍵を握る
- 天気は「一日に四季がある」と言われるほど変わりやすく年間を通して冷涼
- 特有のアイルランド英語は初心者には聞き取りが難しく慣れが必要
- 国全体は平和だが都市部ではスリや置き引き、詐欺などの軽犯罪に注意
- 費用計画ではダブリン以外のコークやリムリックなども有力な選択肢となる
- ワーキングホリデー制度は「学び」より「働く・暮らす」を重視する人に適している
- 大学・大学院卒業後には最長2年間の就労準備期間(Stamp 1G)が与えられる
- ITや製薬など特定スキル職にはクリティカルスキル就労許可(CSEP)の道がある
- 留学から長期就労、そして移住へと続くキャリアパスが制度として確立されている
- 留学の成功は、これらのメリット・デメリットを理解した上での徹底した事前準備にかかっている


