マルタ移住ガイド|基本情報や選択肢、生活設計について解説

マルタ移住ガイド|基本情報や選択肢、生活設計について解説

地中海に浮かぶ島国、マルタ共和国への移住を検討されていますか?温暖な気候と豊かな歴史文化で知られるマルタ島は、近年、ヨーロッパの新たな移住先として大きな注目を集めています。

しかし、実際に移住を考えるとなると、そのメリットだけでなく、もちろんデメリットも気になるところです。また、日本人が移住するためにはどのようなビザの種類があるのか、永住権の条件は厳しいのか、そして現地での生活費や物価、仕事事情、さらには複雑な税金の仕組みなど、知りたい情報は多岐にわたるでしょう。特に家族での移住を視野に入れている方にとっては、子供の教育環境も重要な判断材料となります。

この記事では、マルタ移住に関するあらゆる疑問に答えるため、情報を幅広く解説していきます。

記事のポイント
  • マルタ移住のメリットと知っておくべきデメリット
  • ご自身の目的に合ったビザや永住権の取得条件
  • 現地での生活費の目安や日本人向けの仕事の種類
  • 家族連れに役立つ教育制度や税金に関する情報
目次

マルタ移住の基本とメリット・デメリット

マルタ移住の基本とメリット・デメリット
  • マルタ共和国の概要と特徴
  • 地中海に浮かぶマルタ島の気候
  • マルタに移住するメリットとは
  • 移住前に知るべきデメリット
  • 日本人にとっての生活環境は?

マルタ共和国の概要と特徴

マルタ移住を具体的に検討する第一歩として、この国がどのような場所なのか、その全体像を把握することは非常に重要です。マルタ共和国は、イタリアのシチリア島の南方約80kmに位置する、地中海のほぼ中央に浮かぶ島国です。この戦略的な立地から、古来より地中海の覇権を巡る歴史の舞台となってきました。国土は主にマルタ島ゴゾ島コミノ島の3つの有人島と、複数の無人島から構成されています。その面積は合計で約316平方キロメートルと、日本の淡路島の約半分、東京23区の約半分という非常にコンパクトな国なのです。

人口はWorldometerの推計によると約54万人(2025年時点)で、世界で最も人口密度の高い国の一つに数えられます。この高い人口密度が、活気ある国際的な社会を形成する一方で、インフラへの負荷や交通問題といった、現代的な都市国家が抱える課題の原因にもなっています。

歴史と文化

マルタの歴史は非常に古く、そのルーツは紀元前5200年頃にまで遡ります。特筆すべきは、紀元前3600年頃に建造された巨石神殿群で、これらはエジプトのピラミッドよりも古い、人類最古の石造建築物として知られています。その後、フェニキア人、ローマ帝国、アラブ、ノルマン人、そしてスペインなど、様々な大国の支配を経て、多様な文化が幾重にも重なる独自のアイデンティティを形成しました。

特に、1530年から1798年まで統治した聖ヨハネ騎士団(マルタ騎士団)の時代は、現在のマルタの姿に決定的な影響を与えています。1565年のオスマン帝国による大包囲戦(グレート・シージ)での劇的な勝利は、ヨーロッパのキリスト教世界におけるマルタの地位を確立しました。現在の首都ヴァレッタは、この勝利を記念して、当時の騎士団長ジャン・ド・ヴァレットの名にちなんで築かれた壮麗な要塞都市であり、その街全体がユネスコの世界遺産に登録されています。

1814年からはイギリスの植民地となり、その後150年間にわたる統治の中で、英語が公用語として定着し、行政、法制度、教育システム、そして左側通行といった英国式システムが社会の隅々にまで導入されました。これが、現代のマルタが日本人にとっても言語的・文化的な障壁を感じにくい、非常にアクセスしやすい国であることの歴史的背景となっているのです。

マルタの基本データ

  • 首都: ヴァレッタ
  • 公用語: マルタ語、英語
  • 通貨: ユーロ (€)
  • 宗教: ローマ・カトリックが中心
  • 政治体制: 議会制共和国(EU加盟国、イギリス連邦加盟国)

地中海に浮かぶマルタ島の気候

地中海に浮かぶマルタ島の気候

マルタの気候は、移住先として選ばれる最も大きな魅力の一つと言っても過言ではありません。典型的な地中海性気候に属し、年間を通じて温暖で、特に晴天の日が非常に多いことが大きな特徴です。年間の日照時間は約3,000時間にも及び、これはヨーロッパで最も太陽に恵まれた地域の一つであることを示しています。この気候は、人々のライフスタイルや心身の健康に多大な恩恵をもたらします。

季節ごとの特徴

夏(6月~9月):
高温で乾燥しており、日中の気温は28度から34度に達することが一般的です。時には40度近くまで上がることもあります。しかし、日本の夏のように湿度が高くないため、日陰に入ればカラッとしていて比較的過ごしやすいのが特徴です。ただし、日差しは非常に強烈なため、サングラスや帽子、日焼け止めなどの対策は絶対に欠かせません。この時期は、美しいビーチや透明度の高い海を求めて、世界中から多くの観光客が訪れます。

冬(12月~2月):
温暖で湿潤な季節です。最も寒い1月でも日中の気温は12度から20度程度で、日本の厳しい冬に比べると非常に穏やかです。しかし、マルタの伝統的な建物は石灰岩で造られており、断熱設備が十分に整っていない物件が多いのが実情です。そのため、雨が多く湿度が高い冬の時期は、外気温以上に室内が寒く感じられることがあります。快適に過ごすためには、除湿器や電気ヒーターといった部分的な暖房器具の活用が冬の生活に役立ちます。

春と秋は非常に過ごしやすく、アウトドア活動には最適なシーズンです。このような恵まれた気候は、海水浴やダイビング、セーリングといったマリンスポーツはもちろん、島内に点在する歴史的な散策路でのハイキングなどを一年中楽しむことを可能にします。結果として、心身ともに健康的で開放的なライフスタイルを求める人々にとって、マルタは理想的な環境と言えるでしょう。

マルタに移住するメリットとは

マルタに移住するメリットとは

マルタ移住には、日本の生活とは異なる、数多くの具体的かつ魅力的なメリットが存在します。これらを多角的に理解することで、ご自身のライフプランと照らし合わせ、移住への期待をより現実的なものにできるでしょう。

マルタ移住の5大メリット

  1. 英語が公用語で生活の障壁が低い
    行政手続き、銀行、病院、ビジネスの商談から日常の買い物に至るまで、社会のあらゆる場面で英語が広く通用します。これは、他の南ヨーロッパ諸国への移住と比較した場合の、マルタの際立った優位性です。これにより、移住初期の言語学習の負担が大幅に軽減され、社会への適応が格段にスムーズになります。
  2. 世界トップクラスの治安の良さ
    マルタはヨーロッパで最も安全な国の一つとして国際的に認知されており、暴力犯罪の発生率が極めて低いです。日本の外務省も特段の危険情報を発出しておらず、夜間に女性が一人で歩いている姿も珍しくありません。この安全性は、特にお子様連れの家族にとって、何物にも代えがたい安心材料となります。
  3. EU加盟国としての圧倒的な利便性
    マルタの居住権を持つことで、シェンゲン協定に加盟する他のヨーロッパ27カ国をビザなしで自由に移動できます。週末に気軽にイタリアへ食事に行ったり、長期休暇にヨーロッパ周遊旅行に出かけたりと、その利便性は計り知れません。ビジネスにおいても、ヨーロッパ大陸へのアクセスが容易になることは大きなアドバンテージです。
  4. 外国人居住者に有利な税制
    マルタは、特に「非定住者(Non-domiciled)」と見なされる外国人居住者に対して、非常に魅力的な税制を提供しています。原則として、マルタ国外で得た所得は、マルタに送金しない限り課税されません。これは、国外に資産を持つ投資家や、リモートで高収入を得る専門家にとって、強力な経済的インセンティブとなります。
  5. 温暖な気候と豊かな自然がもたらすQOLの向上
    前述の通り、年間300日以上が晴天という地中海性気候は、心身ともに健康的なライフスタイルを強力にサポートします。美しい地中海への容易なアクセスは、日々のストレスを癒やし、生活の質(QOL)を大きく向上させてくれるでしょう。

これらの主要なメリットに加え、ワークライフバランスを重視する文化も大きな魅力です。日本のプレッシャーの高い労働環境とは異なり、家族や友人との時間を大切にする、よりリラックスした人間らしい生活を送ることが期待できます。

移住前に知るべきデメリット

移住前に知るべきデメリット

マルタの輝かしいメリットの裏には、もちろん現実的な課題や、移住者が直面しうるデメリットも存在します。夢と現実のギャップに苦しまないためにも、これらの点を事前にしっかりと認識し、対策を考えておくことが不可欠です。

マルタ移住の主なデメリットと現実的課題

  • 慢性的な交通渋滞と公共交通機関の信頼性
    国土の狭さに対して自動車保有率が非常に高く、特に朝夕のラッシュアワーにおける交通渋滞は最も深刻な社会問題です。主要な道路は常に混雑しており、毎日の通勤や移動が大きなストレス源となり得ます。また、公共交通機関であるバスも、時刻表通りに運行されることは稀で、時間に正確な日本の交通システムに慣れていると、その信頼性の低さに戸惑うことでしょう。
  • 過剰開発と建設騒音問題
    近年の急速な経済成長は、島全体を建設現場に変えてしまいました。古い建物の取り壊しと新しいアパートの建設が絶え間なく行われており、日中の建設騒音は多くの住民の悩みとなっています。また、開発に伴う自然景観の喪失や、都市部における緑地の不足も深刻な問題です。
  • インフラの脆弱性とコスト
    人口の急増に道路、電力、水道といったインフラの整備が追い付いていません。夏の電力需要のピーク時には停電が時折発生します。また、マルタは恒久的な河川がなく、生活用水の多くを海水の淡水化に依存しているため、水道料金は日本より高くなる傾向があります。
  • 行政手続きの遅さと煩雑さ
    滞在許可を管轄するIdentità(イデンティタ)や、光熱費を管理するARMSといった行政機関とのやり取りは、非効率で時間がかかり、非常にストレスフルな経験となる可能性があります。日本の迅速で丁寧な行政サービスとの大きなギャップに、相当な忍耐力が求められます。
  • 島国特有の閉塞感と物資の制約
    生活圏が限られているため、人によっては人間関係の近さや景色の単調さに息苦しさを感じることもあります。また、多くの商品を輸入に頼っているため、商品の選択肢やサービスの多様性は日本の大都市に比べると限定的です。

これらのデメリットは、マルタの経済成長がもたらした成長痛とも言えます。移住を検討する際は、こうした課題を受け入れ、柔軟に適応していく心構えを持つことが、マルタでの生活を成功させるための鍵となるでしょう。

日本人にとっての生活環境は?

日本人にとっての生活環境は?

マルタで生活する上で、日本人としての暮らしやすさは非常に気になるポイントです。ヨーロッパでありながら英語が通じ、治安も良いという点は大きな安心材料ですが、日本とは異なる環境に適応するための工夫や心構えも必要となります。

日本人コミュニティ

まず、マルタに在住する日本人の数は、まだ数百人程度と非常に少なく、ロンドンやデュッセルドルフ、バンコクのような大規模な日本人コミュニティは形成されていません。これは、日本語での情報交換や、困ったときに気軽に助け合えるような緊密なネットワークが限定的であることを意味します。そのため、移住初期に孤独を感じないためには、自ら積極的に行動することが大切になります。Facebookなどのオンラインのコミュニティを活用して、現地で生活する先輩移住者と繋がることが、スムーズなスタートを切るための助けになるでしょう。

日本食の流通事情

食生活は、海外生活の満足度を左右する重要な要素です。残念ながら、日本の食材を専門に扱う大規模なスーパーマーケットやデパートはマルタには存在しません。しかし、全く手に入らないわけではありません。スリーマやセントジュリアンズといった移住者が多く住むエリアには、中国系や韓国系のアジア食品店がいくつかあり、そこで醤油、味噌、みりん、豆腐、納豆、日本の米、インスタント麺、一部の菓子類といった基本的な調味料や食材を購入することが可能です。

ただし、品揃えは限られており、価格も日本で購入するより当然高めです。日本のようになんでも手軽に手に入る環境ではないため、現地の新鮮で安価な野菜や魚介類を活かした料理のレパートリーを増やすなど、食生活における柔軟な工夫が求められます。

文化への適応という点では、マルタ人の多くが流暢な英語を話すため、初期のコミュニケーションに困ることは少ないでしょう。しかし、本当の意味で地域社会に溶け込むには、カトリック文化に根差した家族を重んじる価値観や、「アイランドタイム」と呼ばれる地中海特有のゆったりとした時間の流れへの理解と尊重が大切です。焦らず、少しずつ現地のペースに慣れていく姿勢が、豊かな移住生活に繋がります。

マルタ移住のための選択肢と生活設計

マルタ移住のための選択肢と生活設計
  • 目的別に選ぶビザの種類
  • 永住権の条件と取得方法
  • 現地の生活費と物価水準
  • マルタでの仕事や働き方
  • 外国人居住者のための税金制度
  • 家族で考える子供の教育環境

目的別に選ぶビザの種類

目的別に選ぶビザの種類

日本国籍者が90日を超えてマルタに滞在するためには、その目的に応じた適切な滞在許可(ビザ)を取得することが法律で義務付けられています。マルタ政府は、多様なニーズに応えるため、いくつかの滞在プログラムを用意しています。ここでは、日本人が利用する可能性の高い主要な選択肢を、それぞれの特徴とともにご紹介します。

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ビザの種類主な対象者概要とポイント
就労ビザ(シングルパーミット)マルタ国内の企業に就職する方マルタで働くための最も一般的な滞在許可です。マルタ国内の企業からの確定した雇用契約が前提となり、通常は雇用主が被雇用者に代わって申請手続きを行います。承認されると、就労許可と滞在許可が一体となったカードが発行されます。
デジタルノマド居住許可リモートで働くフリーランスや会社員マルタ国外に拠点を置く企業や顧客のためにリモートワークを行う非EU市民を対象とした、比較的新しいプログラムです。年間42,000ユーロ以上の安定した総収入を証明できることが主な要件です。許可は1年間有効で更新も可能であり、場所に縛られない現代的な働き方をマルタで実現できます。配偶者や子供などの家族を帯同することも可能です。
学生ビザマルタの教育機関に長期留学する方マルタ政府が認定する語学学校や大学へのフルタイムの就学が決定している場合に申請できます。入学許可証、滞在費用を賄う十分な資金の証明(銀行残高証明など)、そしてマルタ国内をカバーする医療保険への加入などが主な要件となります。
グローバル居住プログラム (GRP)経済的に自立している富裕層・リタイア層永住権とは異なり、特別な税制優遇を受けられる1年更新の滞在許可です。マルタに送金した国外源泉所得に対して一律15%の優遇税率が適用される大きなメリットがあります。ただし、一定額以上の不動産を賃借または購入すること、そして年間最低15,000ユーロの税金をマルタに納付する義務があります。

これらの他にも家族ビザなど、個々の状況に応じた様々な選択肢が存在します。ご自身のキャリアプラン、経済状況、そしてライフスタイルに最も合致したルートを慎重に検討し、計画的に準備を進めることが、移住実現への第一歩となります。

永住権の条件と取得方法

永住権の条件と取得方法

マルタで永住権を取得するための主要なルートは、投資を通じてその資格を得る「マルタ永住権プログラム(Malta Permanent Residence Programme – MPRP)」です。このプログラムは、マルタ経済への貢献を条件に、非EU市民に永住資格を付与するもので、主に経済的に自立した富裕層を対象としています。

このプログラムの最大の魅力は、一度永住権を取得すれば、マルタに継続的に居住する義務(年間最低滞在日数など)がないことです。そのため、生活の拠点を日本や他の国に持ちつつ、EU内での自由な移動や居住の権利を確保したいという方に最適な選択肢と言えます。

主な申請条件

MPRPの申請者は、厳しい適格性審査をクリアした上で、以下の複数の投資要件をすべて満たす必要があります。これらの要件は2025年1月に改定され、以前よりも投資額が増額されています。

MPRPの主要な投資要件として、以下の3つを満たす必要があります。

  1. 不動産投資(購入または賃貸のいずれかを選択)
    • 購入の場合: 375,000ユーロ以上の価値がある不動産を購入し、最低5年間所有する。
    • 賃貸の場合: 年間家賃14,000ユーロ以上の物件を最低5年間賃借する。
  2. 政府への寄付
    • 不動産を購入した場合: 30,000ユーロをマルタ政府に納付。
    • 不動産を賃貸した場合: 60,000ユーロをマルタ政府に納付。
  3. 慈善団体への寄付
    • マルタで登録されている慈善活動、文化、スポーツ、科学などの分野の非政府組織(NGO)へ2,000ユーロの寄付を行う。

これらの投資要件に加え、行政申請料として50,000ユーロが別途必要となります。

また、申請者は経済的基盤の証明として、総資産500,000ユーロ以上(そのうち最低150,000ユーロは流動性のある金融資産)を所有していることを証明しなければなりません。手続きは非常に専門的かつ複雑なため、通常はマルタ政府から正式な認可を受けた公認エージェントを通じて申請を行うのが一般的です。

現地の生活費と物価水準

現地の生活費と物価水準

マルタでの生活を計画する上で、生活費がどのくらいかかるのかを把握することは重要です。マルタの生活費は、他の西ヨーロッパの主要都市に比べれば比較的安価とされてきましたが、近年の著しい経済成長と人気の上昇に伴い、特に住宅費を中心に年々上昇傾向にあります。ご自身のライフスタイルによって必要な費用は大きく異なりますが、以下に単身者と4人家族の場合の月間生活費のモデルケースの例を紹介します。

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費目単身者の目安(月額)4人家族の目安(月額)備考
家賃€800 – €1,200€1,500 – €2,500生活費の中で最も大きな割合を占めます。スリーマやセントジュリアンズといった中心部は高額で、郊外やゴゾ島では比較的安価になります。
光熱費€100 – €200€200 – €350電気、水道、調理用ガス代。特に夏の冷房使用により電気代は大幅に増加する傾向があります。
食費€400 – €600€800 – €1,200自炊中心か外食中心かで大きく変動します。地元のスーパーを利用すれば、野菜や肉類は比較的安価に手に入ります。
交通費€50 – €150€100 – €300公共バスの定期券は比較的安価ですが、利便性から自動車を所有するか、Boltなどの配車サービスを頻繁に利用する人が多いです。
その他(通信・保険・娯楽費など)€250 – €500€600 – €1,100携帯電話、高速インターネット、民間医療保険料、外食、レジャー費用などを含みます。
合計€1,600 – €2,650€3,200 – €5,450これはあくまで一般的な目安であり、個人の消費スタイルによって大きく異なります。

物価に関して、野菜や果物、パン、地元のワインなどの基本的な食料品は比較的安いですが、輸入品やブランド品、そして外食は日本と同じか、場所によっては少し高めに感じることが多いでしょう。特に家賃は、どのエリアに住むかによって生活費全体が大きく左右される最大の変動要因です。移住計画を立てる際には、まず住居費の予算を現実的に設定することが重要になります。

マルタでの仕事や働き方

マルタでの仕事や働き方

マルタの経済は近年、目覚ましい成長を遂げており、そのダイナミズムは多くの外国人専門職に新たなキャリアの機会を提供しています。かつての造船や繊維産業に代わり、現在はサービス産業が経済を力強く牽引しています。特に外国人労働者の需要が高いのは以下の成長産業と言われています。

  • フィンテック・金融サービス
  • ブロックチェーン・IT関連
  • 観光・ホスピタリティ

求職活動の方法の例

マルタでの仕事探しは、戦略的に進めることが成功の鍵です。主に以下の方法が有効です。

  1. オンライン求人サイトの活用
    マルタの公的雇用サービス機関である「Jobsplus」のウェブサイトのほか、「Jobsinmalta.com」や「Careerjet Malta」、「Maltapark」といった民間の大手求人サイトが広く利用されています。まずはこれらのサイトに登録し、どのような求人があるか市場調査から始めると良いでしょう。
  2. 専門分野に特化した人材紹介会社の利用
    特に金融といった専門職の場合、その業界に特化したリクルーターや人材紹介会社に登録するのが最も効果的です。彼らは非公開求人を持っていることも多く、キャリア相談にも乗ってくれます。
  3. プロフェッショナル・ネットワーキング
    ビジネス特化型SNSであるLinkedInを最大限に活用しましょう。自身のプロフィールを充実させ、興味のある企業の採用担当者や、現地で働く人々と積極的に繋がることが重要です。マルタのビジネスコミュニティは比較的小さいため、個人的な繋がりが採用に結びつくケースも少なくありません。

給与水準は職種やあなたの経験によって大きく異なりますが、専門性が求められる日本語関連の職種では、マルタの平均年収(約25,000ユーロ)を上回る給与が期待できるケースもあります。まずはご自身のスキルと経験が、どの分野で活かせるかを分析することから始めてみると良いでしょう。

フリーランス(自営業)としての要件とビザ

マルタの魅力的なライフスタイルとビジネス環境は、フリーランサーやデジタルノマドにとっても魅力的です。非EU市民がマルタに居住するには法的要件を満たす必要があり、自営業者として活動するために以下のような許可が必要です。

デジタルノマド居住許可
マルタ国外のクライアントや企業のためにリモートで働くフリーランサーにとっては、こちらの方が現実的な選択肢です。この許可証ではマルタ国内での事業活動はできませんが、合法的に居住しながらリモートワークを行うことができます 。

自営業者ビザ(Self-Employed Visa)
このビザを取得するには、厳しい条件を満たす必要があります。例えば、最低10万ユーロの資本投資、詳細な事業計画の提出、そしてマルタ/EU市民を一定数雇用することなどが求められます 。これは、本格的な事業立ち上げを意図する起業家向けのオプションです。  

外国人居住者のための税金制度

外国人居住者のための税金制度

マルタの税制は、特に外国人居住者にとって大きな魅力となる可能性を秘めていますが、その仕組みは日本の税制とは大きく異なるため、正確な理解が不可欠です。マルタの個人所得税の根幹をなすのは、「居住地(Residence)」「本籍地(Domicile)」という2つの概念です。

ほとんどの日本人移住者は、マルタに住んでいても「本籍地(永住の意思がある場所)」は日本にあると法的に解釈されるため、「居住者だが本籍地がマルタでない(Resident but Not Domiciled)」という特別な区分に該当します。

Non-domiciled居住者の課税範囲

  • 課税対象となる所得
    • マルタ国内で発生した所得(例:マルタ企業からの給与)
    • マルタ国外で発生し、かつマルタ国内に送金された所得(例:日本の不動産収入をマルタの銀行口座に送金した場合)
  • 非課税となる所得
    • マルタ国外で発生し、マルタ国内に送金されなかった所得(例:日本の銀行口座に入金されたままの配当金)
    • 国外で発生したキャピタルゲイン(例:日本の証券口座で保有する株式を売却して得た利益。これは、たとえマルタに送金したとしても非課税となります)

この「国外で発生したキャピタルゲインは非課税」というルールは、国際的に株式投資などで資産を運用する方にとって、他の国にはない非常に大きなメリットと言えます。

通常の個人所得税の税率は、所得に応じて0%から最高35%までの累進課税ですが、前述のグローバル居住プログラム(GRP)や、リタイアメント層向けのマルタ退職者プログラムといった特別税制を利用すれば、マルタに送金した国外源泉所得に対して一律15%の固定税率を適用することも可能です。

さらに、法人税においても、標準税率は35%と高めですが、特殊な税還付制度が採用されています。これにより、外国籍の株主が配当を受け取る際に、法人が支払った税金の大部分が還付されるため、実効税率を引き下げることも可能です。これが、多くの国際企業がタックスプランニングの一環としてマルタに拠点を置く最大の理由だと言えます。

家族で考える子供の教育環境

家族で考える子供の教育環境

家族での移住を検討する際、お子様の教育環境は、住む場所やライフスタイルそのものを決定づける最優先事項の一つです。マルタの教育システムは、長年の英国統治の影響を強く受けており、そのカリキュラムや教育水準はヨーロッパの中でも高い評価を得ています。義務教育は5歳から16歳までです。学校の選択肢は、大きく分けて以下の3種類があります。

1. 公立学校(State Schools)

マルタ国民や、有効な滞在許可を持つEU市民および非EU市民の子供は、無料で通うことができます。これは家計にとって大きなメリットです。しかし、最大の課題は言語です。授業は主にマルタ語で行われ、英語は第二言語として教えられます。そのため、マルタ語を母語としない日本の子供たちが、いきなり現地の公立学校に入学して授業についていくのは、言語の壁から非常に困難であると言わざるを得ません。

2. 教会学校(Church Schools)

カトリック教会が運営する学校で、マルタの教育システムにおいて重要な役割を担っています。授業料は基本的には無料ですが、学校運営のための寄付が求められます。教育水準が高いと評判で、現地でも非常に人気がありますが、その分、入学は非常に競争率が高く、多くの場合は宗教的背景や居住地域に基づいて選考され、最終的には抽選で決まることが多いです。外国人家庭の子供が入学するのは極めて難しいのが現状です。

3. 私立・インターナショナルスクール(Private/Independent Schools)

結論として、多くの外国人家庭が選択するのがこの私立学校です。これらの学校では、授業はすべて英語で行われ、国際バカロレア(IB)や英国式のIGCSE/A-Level、米国式のAP(アドバンスト・プレイスメント)など、国際的に通用する質の高い教育プログラムを提供しています。

ただし、これらの私立学校の教育水準は高い一方で、授業料は非常に高額です。学年にもよりますが、年間10,000ユーロ(約167万円)を超えることも珍しくなく、これに加えて登録料や施設費なども必要となります。教育費は、家族での移住計画において、非常に大きな割合を占める予算項目となることを覚悟しておく必要があります。

マルタは社会全体として子供に非常に優しく、治安も良いため、子育てしやすい文化が根付いています。学校選びは、ご家庭の教育方針、そして何より予算を決定づける最も重要な要素となるため、早い段階から各学校の情報を集め、慎重に比較検討することが大切です。

総括:マルタ移住の基本と生活設計

記事のポイントをまとめます。

  • マルタ移住は地中海の魅力的なライフスタイルを提供する
  • メリットには英語公用語、高い安全性、有利な税制がある
  • EU加盟国であるためヨーロッパ内の移動が自由
  • デメリットは交通渋滞、過剰開発、インフラの脆弱性
  • 行政手続きの遅さには忍耐強さが必要
  • 日本人コミュニティは小さく、日本食の入手は限定的
  • 移住には目的に合ったビザの取得が必須
  • 就労ビザやデジタルノマドビザが一般的な選択肢
  • 投資による永住権プログラム(MPRP)は富裕層向け
  • 生活費は家賃が大部分を占め、近年上昇傾向にある
  • 税制は「非定住者」に有利な仕組みとなっている
  • 教育は公立、教会、私立(インターナショナル)から選択
  • インターナショナルスクールの学費は高額
  • 移住の成功には現実的な期待値と文化への柔軟性が鍵となる
目次