地中海に浮かぶ美しい島国、マルタ共和国。海や街並みが魅力のこの国に観光や留学を計画中の方も多いのではないでしょうか。
旅の大きな楽しみの一つといえば、やはり現地の食事ですよね。マルタのご飯や食べ物について情報を集める中で、「マルタ共和国の食文化にはどんな特徴があるの?」「主食や特有の食材は何だろう?」「マルタ料理は、一部で聞くように本当にご飯がまずい、なんてことはあるの?」といった様々な疑問が浮かぶかもしれません。有名な食べ物はもちろん、国民食として愛されるうさぎ料理や魚介スープのアリオッタ、さらには現地の個性的な飲み物やお酒についても気になるところです。
この記事では、マルタでの食事を最大限に楽しむために、その文化的な背景から、おすすめのレストラン選びのコツ、知っておきたい食事マナーに至るまで、あらゆる疑問に様々な視点からご紹介します。
- マルタのご飯・食べ物の特徴と食文化の歴史
- 絶対に食べたい代表的なマルタ料理
- 旅行に役立つレストラン選びと食事マナー
- マルタの食事が「まずい」と言われる背景
マルタのご飯・食べ物の基本と食文化の特徴

- マルタ共和国の食文化の特徴とは
- マルタの主食と代表的な食材
- 多様な文化が融合したマルタ料理
- マルタ料理や有名な食べ物を紹介
- 国民食のうさぎ料理とアリオッタ
- マルタのご飯はまずいとされる背景
マルタ共和国の食文化の特徴とは
マルタの食文化は、単にレシピをまとめたものではなく、この島々が経験してきた数千年にわたる歴史そのものを、一皿の上に映し出す生きた年代記です。その最大の特徴は、「必要性と適応の料理」として、そのアイデンティティが形成された点にあります。地理的に地中海の貿易路の十字路に位置するため、常に新しい食材や調理法に触れる機会に恵まれていました。しかしその一方で、国土が小さく耕作可能な土地や淡水が極端に限られるという、厳しい資源的制約にも直面してきました。
この「外部からの豊富な影響」と「内部の資源的制約」という、二つの相反する力が絶妙な緊張関係を生み出し、結果としてマルタ料理の独創性を育んできたのです。例えば、お隣イタリアのパスタは、マルタではより保存性が高く、分け合いやすいボリューム満点のパイ料理「ティンパーナ」へと姿を変えました。これは、手に入った貴重な食材を最大限に活用し、少ない量で多くの人の空腹を満たすという、厳しい環境を生き抜くための生活の知恵から生まれた、見事な適応の形と言えるでしょう。
このように、マルタの食文化は、様々な時代の支配者や来訪者が持ち込んだものを、ただ受動的に受け入れるのではなく、自らの風土と歴史、人々の生活様式の中で変容させてきた結果だとも言えます。
マルタ料理に影響を与えた歴史
マルタの食卓は、各時代の文化が複雑に織りなりています。それぞれの時代が、現代のマルタ料理にどのような「味」の特徴を加えたのか、以下に詳しくまとめています。
時代/支配勢力 | 主な食文化への貢献と具体例 |
---|---|
フェニキア人/ローマ人 | オリーブ、ブドウ、小麦といった農業の根幹を導入。これが現在のオリーブオイル、ワイン、そして主食であるパン(ホブズ)の文化の礎となりました。ローマ時代には養蜂も盛んになり、「蜂蜜の島」としても知られました。 |
アラブ人 | レモンやオレンジといった柑橘類、アーモンド、そしてコリアンダーやクミンなどの多様なスパイスをもたらしました。特に菓子類にその影響は色濃く、デーツを使った「イムアレット」や、食に関するマルタ語(例:パンを意味する「ホブズ」)にその遺産が残っています。 |
聖ヨハネ騎士団 | フランス、イタリア、スペインなどヨーロッパ各地出身の騎士団は、大陸の洗練された調理技術を紹介しました。皮肉にも、彼らが民衆のウサギ狩りを厳しく制限したことが、後にウサギ料理を「抵抗の象徴」としての国民食へと昇華させるきっかけとなりました。 |
イギリス | パイ、プディング、紅茶といった日常的な食習慣や、ウスターソースなどの調味料を定着させました。特に、肉料理に添えられる厚切りのフライドポテト(チップス)は、イギリス統治時代の最も分かりやすい影響の一つです。 |
マルタの主食と代表的な食材

マルタの食生活を力強く支えているのは、何と言ってもパン(Ħobż)です。特に重要なのが、伝統的な2種類のパン、「ホブズ・タルマルティ」と「フティーラ」。これらは単なる食べ物を超え、マルタ人の魂とも言える存在です。そして、料理の味の基盤となるのは、地中海の太陽と豊かな海が育んだ、素朴で力強い食材たちです。
マルタ人の魂「ホブズ」と世界が認めた「フティーラ」
ホブズ・タルマルティ(Ħobż tal-Malti)は「マルタのパン」を意味し、伝統的な薪窯で焼き上げられる大型のサワードウパンです。その特徴は、硬く分厚い、バリバリとしたクラスト(外皮)と、対照的にしっとりと気泡の多い、柔らかくふわふわとしたクラム(内側)。このパンをスライスし、オリーブオイルとトマトペーストを塗って食べるのが、マルタの日常的な風景です。
一方、フティーラ(Il-Ftira)は、ホブズよりも平たく、中央に穴が開いたリング状のパンです。その文化的価値と職人技術が認められ、2020年にユネスコの無形文化遺産に登録されました。フティーラは、オリーブオイルをたっぷりと塗り、トマトペースト(クンセルヴァ)、ツナ、ケッパー、オリーブなどを挟んだサンドイッチ「ホブズ・ビッゼイト」として食べるのが最もポピュラーなスタイル。マルタの夏のビーチやピクニックに欠かせない、国民的ソウルフードとなっています。
料理の基礎となる五大要素と季節の恵み
マルタ料理の味付けは、驚くほどシンプルです。その基本となるのが、オリーブオイル、トマト(特に濃厚なペースト状のクンセルヴァ)、ニンニク、ケッパー、オリーブの5つの要素。これらはほぼ全ての料理に登場すると言っても過言ではなく、マルタ料理のDNAを形成しています。これに、旬の野菜、例えば春のアーティチョークやソラマメ、夏のナスやピーマン、秋のカボチャなどが加わり、食卓を豊かに彩ります。食卓は季節の移ろいを敏感に反映し、特に8月下旬から12月にかけては、名産の魚「ランプーキ(シイラ)」が旬を迎え、多くの家庭でランプーキ・パイが焼かれます。
ゴゾ島の宝、羊乳チーズ「ジュベイナ」
ジュベイナ(Ġbejna)は、主にマルタ島の姉妹島であるゴゾ島で伝統的に作られてきた、小型の羊乳チーズです。その名前はアラビア語の「小さなチーズ」に由来すると言われています。フレッシュなものから乾燥・熟成させたものまで様々な種類があり、マルタ料理に欠かせないアクセントとして、あらゆる場面で活躍します。
ジュベイナの主な種類と楽しみ方
- フリスキ(Friski)
最もフレッシュなタイプ。まるで日本の寄せ豆腐のような、柔らかくミルキーな味わいが特徴。サラダやパンと一緒に、またはスープに浮かべて食べられます。 - モッシャ(Moxxa)またはニエシュファ(Niexfa)
天日で乾燥させたハードタイプ。水分が抜けて旨味が凝縮し、ナッツのような香ばしい風味が生まれます。すりおろしてパスタにかけることもあります。 - タルブザール(tal-bżar)
黒胡椒をたっぷりとまぶして熟成させた、ピリッと刺激的なタイプ。ワインとの相性が抜群で、チーズプラッターの主役になります。
多様な文化が融合したマルタ料理

前述の通り、マルタ料理は歴史の中で様々な文化の影響を吸収してきました。それぞれの食文化の要素がマルタの地で出会い、全く新しい料理へと変化した「文化の融合」と呼ぶべき産物だと言えます。
その最も優れた例が、国民的スナックのパスティッツィでしょう。このサクサクとした菱形のパイは、生地の作り方に中東のペイストリー技術の影響が見られますが、その中に詰められているのは、隣国であるイタリアのポピュラーなリコッタチーズです。アラブとイタリアの食文化が、マルタの中で融合した食べ物です。
また、ご馳走料理のティンパーナも、この文化を象徴する一品です。基本はイタリアのパスタ料理(マカロニのミートソース和え)ですが、それをイギリス由来のパイ文化と大胆に融合させ、丸ごとパイ生地で包んでオーブンで焼き上げてしまいます。これは、限られた食材で最大限の満足感と保存性を得るための、マルタならではの合理的な発想から生まれました。
魚のスープであるアリオッタも同様です。その起源はフランス南部のブイヤベースにあるとされていますが、マルタではよりシンプルに、地元のありふれた魚とハーブ、そしてたっぷりのニンニクを使って、庶民的で力強い味わいのスープとして再構築されました。このように、マルタ料理は外来文化を巧みに取り入れ、見事に「マルタ化」させた、創造性あふれる食文化なのです。
マルタ料理や有名な食べ物を紹介

マルタには、日常的に親しまれる安価なスナックから、家族が集まる特別な日に食べるご馳走まで、旅行者がぜひ試してみたい有名な食べ物が数多く存在します。ここでは、その中でも特に代表的で、マルタの食文化を感じられる料理をいくつかご紹介します。
パスティッツィとアッサタット:国民的ストリートフード
マルタの街を歩けば、必ず「パスティッツェリア」という小さなベーカリーに出会います。そこで売られているのが、マルタのストリートフードの王様、菱形のパイ「パスティッツィ(Pastizzi)」です。フィロ生地を何層にも重ねて作られるため、外はパリパリ、中はアツアツ。伝統的な中身は、ほんのり甘いリコッタチーズ(tal-irkotta)か、塩味の効いたエンドウ豆のペースト(tal-piżelli)の2種類が定番です。一つ数十セントという手軽さも魅力で、朝食や小腹が空いた時のおやつとして、地元の人々に愛されています。また、同じ店で売られていることが多い丸い形の「アッサタット(Qassatat)」は、ほうれん草やツナなどが入った、より食べ応えのある惣菜パンで、こちらも人気があります。
ブラジオリ:肉で肉を巻く、家庭の味
「ブラジオリ(Bragioli)」は、薄切りの牛肉で、牛ひき肉、ベーコン、パセリ、パン粉、そして時にはゆで卵などを混ぜた詰め物を巻き、爪楊枝で留めて煮込んだ、マルタの伝統的な家庭料理です。「ビーフオリーブ」とも呼ばれますが、オリーブは入っておらず、その形から名付けられました。トマトと赤ワインをベースにした濃厚なソースでじっくりと煮込まれており、牛肉の旨味がソースに溶け出し、奥深い味わいを生み出します。レストランでは、フライドポテトやサラダと共に提供されるのが一般的です。
ティンパーナとロス・イルフォルン:究極のコンフォートフード
マルタの祝祭や日曜日のランチに登場する、コンフォートフードの極みとも言えるのが「ティンパーナ(Timpana)」です。茹でたマカロニを、ひき肉とトマトを煮込んだボロネーゼ風のソースで和え、溶き卵やチーズを混ぜ込み、それを丸ごと大きなパイ生地で包んでオーブンで焼き上げた、見た目も味もインパクト絶大な一品。一方、「ロス・イルフォルルン(Ross il-Forn)」は「オーブンで焼いたご飯」を意味し、ティンパーナの米版ともいえるキャセロール料理です。どちらも元々は残り物を活用し、大人数で分け合うための家庭料理として発展してきました。
料理のボリュームには注意
ティンパーナやブラジオリといった伝統料理は、日本の感覚からすると、一皿の量が非常に多いことで知られています。特にティンパーナは、一見するとパイですが中身はパスタなので、炭水化物の塊です。レストランで注文する際は、一人一品ずつ頼むと食べきれない可能性もあるため、複数人で前菜やメインとしてシェアすることをおすすめします。
国民食のうさぎ料理とアリオッタ

マルタの食文化の神髄に触れるなら、絶対に外せないのが、国民食であるウサギ料理と、地中海の恵みを丸ごと凝縮した魚のスープ「アリオッタ」です。これらは単に美味しい料理というだけでなく、マルタの歴史、風土、そして人々の誇りが深く刻み込まれた、象徴的な一皿と言えるでしょう。
ウサギ料理(フェンカータ):抵抗と誇りの象徴
マルタで「お肉を食べよう」となれば、まず第一に名前が挙がるのがウサギです。国民食として不動の地位を築いているのが「ストゥッファット・タルフェネック(Stuffat tal-Fenek)」。これは、ウサギ肉を赤ワイン、ニンニク、トマト、ベイリーフなどのハーブと共に、肉が骨から崩れるまで長時間じっくりと煮込んだシチューです。
この料理が国民食となった背景には、16世紀から18世紀にかけてマルタを支配した聖ヨハネ騎士団が、ウサギの狩猟を騎士たちの特権とし、民衆に厳しく禁じたことへの「象徴的な抵抗」というユニークな歴史があります。禁じられていたウサギをこっそり食べることが、支配者へのささやかな反抗であり、マルタ人としてのアイデンティティを確認する行為だったのです。
宴会「フェンカータ」の伝統的な楽しみ方
「フェンカータ」とは、ウサギ料理を囲んで大勢で楽しむ宴会のことを指します。伝統的なレストランでは、多くの場合2段階のコースで提供されます。まず、ウサギの煮込みソース(ラグー)をたっぷりかけたスパゲッティがプリモ(第一の皿)として出され、その後、セコンド(第二の皿)としてウサギのシチュー本体や、カリッと揚げたウサギのフライが登場します。この2段階で、ウサギを余すところなく味わい尽くすのが、本格的なスタイルです。
魚のスープ(アリオッタ):漁師の知恵が詰まった一品
「アリオッタ(Aljotta)」は、マルタを代表するもう一つの伝統的なスープです。その名前はイタリア語の「aglio(ニンニク)」に由来するとも言われ、その名の通りニンニクの力強い風味がこのスープの味の核となっています。最高の風味を引き出すため、メバルなどの小魚を頭や骨ごと豪快に煮込み、そこから生まれる濃厚な出汁(ブロード)がベース。トマトの酸味、ミントやマジョラムといったハーブの爽やかな香り、そして仕上げに加える一握りのお米が、スープに独特のとろみと満足感を与えます。もともとは、売り物にならない小さな魚を無駄なく美味しく食べるための漁師の知恵から生まれた、素朴ながらも奥深い、滋味あふれる一品です。
マルタのご飯はまずいとされる背景

旅行系のSNSやブログなどで、「マルタのご飯はまずい」「口に合わなかった」という辛口な意見を目にすることがあります。マルタ旅行を計画している方にとっては、少し不安になる情報かもしれません。しかし、結論から言うと、これは料理の質が低いというわけではなく、日本とマルタの食に対する根本的な価値観や「美味しい」と感じるポイントの違い、つまり「食文化の衝突」に起因する場合がほとんどです。
その背景を理解することで、戸惑うことなく、むしろその違い自体をマルタ料理の個性として楽しむことができるはずです。日本人の味覚とのギャップを生む主な要因としては、以下の点が挙げられます。
日本人の口に合わないと感じるかもしれない5つの理由
- 風味の構成
マルタ料理は、保存性を高める意味合いもあり、塩味がはっきりと強く、またオリーブオイルを料理にたっぷりと使います。昆布や鰹節の繊細な「旨味」を味の基本とする日本の食文化に慣れ親しんだ味覚からすると、この直接的で力強い塩味と油分が、トゥーマッチに感じられることがあります。 - 圧倒的なボリューム
マルタのレストランで提供される一皿の量は、日本のそれとは比較にならないほど多いことで知られています。これは「お腹いっぱいになること」を良しとする文化の表れですが、日本人にとっては「多すぎて食べきれない」「味が単調に感じる」という印象につながることがあります。 - 炭水化物のオンパレード
前菜にパン、プリモ(第一の皿)にパスタ、セコンド(第二の皿)の付け合わせにポテト、といった炭水化物が何度も重なる食事構成も珍しくありません。少量多品目で栄養バランスを取る日本の食事スタイルとは大きく異なります。 - 食感の違い
マルタでは、肉を骨から簡単に外れるほど、野菜を形がなくなるほど、とろとろになるまで長時間煮込む調理法が好まれます。これは食材を余すことなく柔らかく食べるための知恵ですが、歯ごたえや食材ごとの多様なテクスチャーを珍重する日本の食文化とは、アプローチが異なります。 - イギリス料理の影響
約150年間のイギリス統治時代の影響も無視できません。地中海料理特有のハーブやスパイスを期待していると、フィッシュ・アンド・チップスのような素朴で淡白な料理が出てきて、そのギャップに驚くことがあります。
日本の食文化が、素材の味を活かし、様々な小皿で構成される「調和」を追求するのに対し、マルタの食文化は、一つの皿に豊かさを詰め込み、皆で分かち合う「充足」を祝う文化だと言えます。この違いを理解した上で味わうと、きっと新しい発見があるはずですよ。
日本とマルタの食文化比較
両国の食に対するアプローチの違いを、より具体的に比較してみましょう。
食文化の側面 | マルタのアプローチ | 日本のアプローチ |
---|---|---|
主要な風味 | 塩味、酸味(トマト)、ハーブ、スパイスが重なる力強い風味 | 旨味(出汁)、醤油、味噌を基本とする繊細で調和のとれた風味 |
油分・脂肪の役割 | オリーブオイルを多用し、風味とコク、保存性を高める | 油分は控えめで、調理法に応じて使用。素材の味を活かす |
量と食事構成 | 一皿の量が多く、炭水化物が中心となることが多い。充足感を重視 | 少量多品目(一汁三菜)が基本。多様性と栄養バランスを重視 |
重視される食感 | 長時間煮込んだ柔らかさ、パイ生地のサクサク感 | 生、焼く、煮る、蒸す、揚げるなど多様な調理法による食感の幅広さ |
マルタのご飯・食べ物とおすすめ観光ガイド

- マルタの飲み物とお酒の魅力
- マルタ島での食事を楽しむコツ
- 知っておきたいマルタの食事マナー
- マルタ観光でのレストラン選び
マルタの飲み物とお酒の魅力

マルタでの食体験は、料理だけでなく、その風土が生み出したユニークな飲み物によって、より一層豊かなものになります。国民的なソフトドリンクから、2000年以上の歴史を持つワインまで、マルタならではの味をご紹介します。
国民的ドリンク「キニー」と地ビール「チスク」
「キニー(Kinnie)」は、マルタの国民的ソフトドリンクであり、まさにマルタの味そのもの。製造元であるファーソンズ(Farsons)社が1952年に開発した、ビターオレンジとニガヨモギなど十数種類のハーブから作られる炭酸飲料です。その独特の風味は、初めて飲む人にとっては癖があるかもしれませんが、慣れると病みつきになるとも言われています。
一方、同じくファーソンズ社が製造する「チスク(Cisk)」は、マルタで最も人気のあるラガービール。1929年に誕生した歴史あるビールで、黄金色でスッキリとしたキレのある味わいは、地中海の太陽の下で飲むのに最適です。どちらもマルタのスーパーやレストラン、カフェで必ず見かける、まさに国民的な定番商品です。
キニーの味は、イタリアの食前酒カンパリやハーブ系リキュールに例えられることもありますが、まさに唯一無二の存在です。地元の人々には深く愛されていますが、その個性的な味から「マルタの洗礼」と呼ばれることも。マルタ訪問の記念に、この味の冒険にぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。近年は低カロリー版やレモン風味のバリエーションも登場しています。
マルタワインの隠れた魅力
マルタのワイン造りの歴史は、なんと2000年以上前のフェニキア人の時代にまで遡ります。国土が狭く生産量が限られているため、国外でマルタワインに出会うことは極めて稀ですが、近年その品質は飛躍的に向上しています。マルタにはイェッレーウツァ(Ġellewża)という土着の赤ブドウ品種と、ジルジェンティーナ(Girgentina)という土着の白ブドウ品種があり、これらを使ったワインは、まさにマルタでしか味わえない特別な一本となるでしょう。レストランで食事をする際には、ぜひマルタワインを試してみてください。品質保証の証である「DOK (Denominazzjoni ta’ Oriġini Kontrollata)」や「IĠT (Indikazzjoni Ġeografika Tipika)」の表示があるワインが、品質の目安となります。
地元の果実から生まれるリキュール
マルタのお土産として人気が高いのが、地元の果物やハーブを利用した伝統的なリキュールです。最も有名なのは、8月から9月にかけて収穫されるウチワサボテンの実から造られる、鮮やかなピンク色の「バイトラ・リキュール(Bajtra Liqueur)」。甘く華やかな香りが特徴で、よく冷やして食後酒として楽しむのが一般的です。他にも、イナゴマメ(ハッルーバ)やザクロ、レモンなど、地中海の恵みを活かした多様なフレーバーがあり、お土産探しも楽しめます。
マルタ島での食事を楽しむコツ

マルタの独特で力強い食文化を最大限に満喫するためには、いくつかのコツがあります。特に、初めてマルタ料理に触れる方や、日本人の繊細な味覚に合うか少し心配な方は、ぜひ以下のポイントを参考にしてください。
まず、最も安全で確実なアプローチは、日本人の口にも合いやすい、素材の味を活かしたシンプルな料理から試してみることです。例えば、港町のレストランで提供されるメカジキ(Pixxispad)やタイ(Sea Bream)などの新鮮な魚を、シンプルにグリルしてもらい、レモンとオリーブオイルでいただく料理は、日本の焼き魚にも通じる普遍的な美味しさがあります。また、魚介の旨味が凝縮されたスープ「アリオッタ」や、野菜の優しい甘みが体に染み渡る「ソッパ・タルアルムラ(未亡人のスープ)」も、多くの日本人に好まれるでしょう。
次に、マルタでの食事で非常に重要なのが、「シェアする文化」を積極的に楽しむことです。前述の通り、マルタ料理は一皿のボリュームが非常に大きいため、日本の感覚で一人一品ずつメイン料理を注文すると、食べきれずに後悔することになりかねません。複数人でいくつかの異なる料理を注文し、みんなで分け合って食べるのが賢明であり、また楽しいスタイルです。様々な味を少しずつ試せる「マルタ風プラッター(ジュベイナ、オリーブ、サンドライトマト、ビギッラなどが盛り合わせになった前菜)」から始めるのも、マルタ料理入門として最適な方法です。
旅の醍醐味、「旬」を意識する
本来、伝統的なマルタ料理は、農業と漁業の暦、つまり季節の恵みと深く結びついています。例えば、秋の味覚である魚「ランプーキ」を使ったパイは、やはりその時期に食べるのが最も風味豊かで格別です。もしあなたが5月にマルタを訪れてランプーキ・パイを注文した場合、それは冷凍の魚で作られている可能性が高いことを意味します。旅行する季節に何が旬なのかを少し意識するだけで、より本格的で思い出深い食体験ができます。
知っておきたいマルタの食事マナー

マルタでの食事をよりスムーズに、そして気持ちよく楽しむために、基本的なマナーや現地の慣習を知っておくと非常に役立ちます。ヨーロッパの一般的なマナーと共通する部分が多いですが、マルタならではのポイントもいくつか押さえておきましょう。
まず、最も実用的なアドバイスとして、人気のレストラン、特に週末(金曜~日曜)のディナーには予約が強く推奨されます。マルタのレストランは小規模で家族経営の店も多く、席数が限られているため、予約なしで訪れると満席で断られてしまうケースが少なくありません。数日前、あるいは人気店の場合は一週間以上前に予約を入れておくのが賢明です。近年は「Bookia」や「Tablein」といったオンライン予約サイトも普及しており、手軽に予約できます。
次にチップの習慣についてです。これは義務ではありませんが、良いサービスを受けた際に感謝の気持ちを示す美しい慣習として根付いています。請求書にサービス料(service charge)が含まれていない場合、会計総額の5~10%程度をチップとしてテーブルに残すか、お釣りを多めに受け取らないのがスマートです。カードで支払う際に、チップ額を上乗せして決済することも可能です。
スマートに食事を楽しむための基本マナー
予約
週末や人気店は、オンラインサイトなどを利用して事前に予約するのが確実です。
食事の時間
ランチは12時~14時頃、ディナーは19時以降が一般的。食事は時間をかけてゆっくりと楽しむのがマルタ流です。
服装
よほどの高級店でなければスマートカジュアルで問題ありません。ただし、ビーチサンダルや水着での入店は避けましょう。
その他
新鮮な魚がメニューにある場合、調理前にその日の魚を見せてもらうのは一般的な習慣です。遠慮なくお願いしてみましょう。
服装については、ほとんどのレストランではジーンズなどのカジュアルな服装で問題なく受け入れられます。しかし、一部のファインダイニングのレストランでは、男性のショートパンツや襟のないシャツ、サンダル履きがドレスコードで禁止されている場合があります。特別なディナーを計画している場合は、念のため予約時に服装について確認しておくと、当日慌てずに済み安心です。
マルタ観光でのレストラン選び

マルタには、素朴な家庭料理を提供するトラットリアから、洗練された食体験ができる高級店まで、実に多様なレストランが存在します。旅の目的や好みに合わせてお店を選ぶために、エリアごとの特徴を把握しておくのがおすすめです。
目的別・エリアごとのレストランの特徴
ヴァレッタ(Valletta)
首都であり世界遺産の街。歴史的な建物を改装した雰囲気の良いレストランが多く、中にはミシュランガイドで星を獲得するようなファインダイニングも。特別なディナーにおすすめです。
マルサシュロック(Marsaxlokk)
カラフルな伝統漁船が浮かぶ美しい漁村。日曜日に開かれるフィッシュマーケットが有名で、何と言っても新鮮なシーフードを味わうならこのエリアが一番です。
スリーマ(Sliema)/セントジュリアン(St. Julian’s)
マルタで最もモダンな商業エリア。マルタ料理はもちろん、イタリアン、アジア料理など、各国のレストランがおしゃれな雰囲気の中で楽しめます。
イムジャール(Mġarr)
内陸部にあるこの村は、「フェンカータ(ウサギ料理の宴会)」で特に有名なエリア。本格的なウサギ料理を求めるなら、この村のレストランを訪れるのが正解です。
ゴゾ島(Gozo)
素朴で質の高いレストランが点在。ゴゾ島名物のチーズ「ジュベイナ」を使った料理や、ピザによく似た「ゴゾ風フティーラ」の名店があります。
レストラン選びで最高の情報源は、やはり「地元の人」。ホテルのフロントスタッフやタクシーの運転手さんに「伝統的なマルタ料理が食べられる、あなたのおすすめのお店は?」と気軽に尋ねてみてください。ガイドブックには載っていない、とっておきの名店を教えてもらえるかもしれませんよ。
マルタ観光でグルメを満喫しよう
マルタの食文化は、キリスト教の暦と分かちがたく結びついており、一年を通じて行われる宗教的な祝祭(フェスタ)では、その時期にしか味わうことのできない特別な料理やお菓子が登場します。これは、季節の恵みを神に感謝し、共同体の絆を深める上で重要な役割を果たしてきました。マルタ観光の時期がこれらのお祭りと重なるなら、ぜひ現地の祝祭グルメも体験してみてください。それは、マルタの文化をより深く、そして美味しく理解する絶好の機会となるでしょう。
夏のマルタは、各村の守護聖人を盛大に祝う「フェスタ」の季節です。この期間、村中はイルミネーションや旗で華やかに飾られ、通りには屋台が立ち並び、島全体がお祭りムード一色となります。フェスタの屋台で欠かせない食べ物が二つあります。一つは、アーモンドやヘーゼルナッツがぎっしり詰まった甘いヌガー「クッバイト(Qubbajd)」。もう一つは、デーツ(ナツメヤシ)のペーストを生地で包んで揚げた伝統菓子「イムアレット(Imqaret)」です。揚げたての熱々のイムアレットを片手に、賑やかなフェスタの夜を散策するのは、忘れられない思い出になるはずです。
季節を彩る祝祭の味
- 復活祭(イースター)
マルタで最も重要な祝祭。レモンの香りがするビスケット生地でアーモンドペーストを挟んだ、人や魚の形をした大きな菓子「フィゴッリ(Figolli)」が作られます。 - クリスマス
イギリス文化の影響で七面鳥がメインディッシュに上る一方、食後にはスパイスの効いた温かい栗の飲み物「インブリュータ・タルアスタン」や、糖蜜を詰めたリング状の菓子「アーアッ・タルアセル」といった伝統的な甘味が楽しまれます。
食は、その土地の文化や歴史、そして人々の暮らしを知るための最高の入り口です。マルタ観光では、紺碧の海や蜂蜜色の歴史的建造物だけでなく、ぜひその背景にある物語と共に、豊かで奥深い食文化も存分に満喫してくださいね。
マルタのご飯や食べ物について総括
この記事では、マルタのご飯と食べ物について、そのユニークな食文化の背景から、絶対に味わいたい具体的な料理、そして旅行をより楽しむための実践的な情報まで掘り下げて解説しました。最後に、マルタでの食体験を豊かなものにするための要点を、リスト形式でまとめます。
- マルタの食文化は、フェニキアからイギリスまで多様な歴史を反映している
- 主食はサワードウパンのホブズ、ユネスコ無形文化遺産のフティーラである
- オリーブオイル、トマト、ニンニク、ケッパー、オリーブの5つが味の基本
- 騎士団への抵抗の歴史を持つ、ウサギの煮込み「フェンカータ」が国民食である
- ニンニクが効いた濃厚な魚介スープ「アリオッタ」は必食の伝統料理
- リコッタチーズや豆ペーストが入ったパスティッツィは、国民的スナックである
- 「まずい」という評価は、日本の食文化との価値観の違いに起因する
- 一皿のボリュームが非常に多いため、複数人でシェアするのがおすすめ
- 国民的ソフトドリンク「キニー」は、独特のほろ苦いハーブの味が特徴である
- マルタで最も愛されている地ビールは、スッキリとした味わいの「チスク」
- 固有品種イェッレーウツァとジルジェンティーナで造るワインは希少である
- レストランは、首都や漁村などエリアごとの特色を理解して選ぶのがコツ
- 週末のディナーや人気のレストランを訪れる際は、事前の予約が賢明である
- 良いサービスには、感謝の気持ちとして会計の5~10%のチップを渡すのが慣習
- マルタでの食事は、単なる腹ごしらえではなく、歴史と文化を味わう体験である




