「英語の発音がどうしても難しい」「どれだけ練習しても自然な英語で話せない」と、長年の学習で壁にぶつかっていませんか。私たち日本人が英語の発音に苦戦するのは、単なる個人のセンスや練習不足の問題ではありません。そこには、日本語と英語という二つの言語間に横たわる、根本的な「音の構造」や「周波数」の決定的な違いが関係しています。
多くの学習者がつまずくLとRの区別、ネイティブ特有の高速なスピード、そして独特のリズムやアクセントの波。これらは、私たちが普段使っている「日本語の耳」というフィルターを通して聞いている限り、乗り越えるのが難しい障害の一つとなります。しかし、決して諦める必要はありません。言語の仕組みを理解して正しいアプローチで練習すれば、ネイティブに不自由なく通じる自然な英語を手に入れることができるはずです。
- 英語の発音が難しいと感じる物理的・言語学的な根本原因
- 日本人が特に苦手とする具体的な音と単語の克服ポイント
- 日本語変換を止めて「英語脳」で音を捉えるための思考法
- 今日から独学で始められる効果的な発音トレーニングとアプリ
英語の発音が難しいと感じる理由

多くの日本人が中学、高校、そして大人になっても英語を勉強し続けているにもかかわらず、「発音が通じない」「リスニングができない」と悩むのには、明確な理由があります。ここでは、精神論や根性論ではなく、言語としての構造的な違いや、私たちが無意識に使っている「日本語のOS」がどのように英語学習の邪魔をしているのかを深く掘り下げて解説します。敵を知ることで、初めて有効な対策が見えてきます。
英語の発音が難しい理由とは
私たちが「英語の発音は難しい」と感じる最大の原因は、実は耳の物理的な「周波数フィルター」にあります。フランスの耳鼻咽喉科医アルフレッド・トマティス博士が提唱した理論によると、人間は成長する過程で、母国語である日本語の周波数帯(パスバンド)に特化して聴覚を発達させると言われています。
具体的には、日本語は比較的低い周波数帯である125Hz〜1,500Hzを中心に使う発声言語の一方で、英語(特に米語やイギリス英語)は2,000Hz〜12,000Hzという、非常に高い周波数帯を含む言語とされています。この高周波帯域には、英語の子音(s, t, k, f, thなど)の音が集中しています。
(出典:Learning a new language faster with Tomatis | Tomatis Association (NZ))
脳が音を「雑音」として処理している?
私たち日本人の耳は、長年の日本語生活によって1,500Hz以上の音を「言語にとって重要ではない音」、つまり「雑音」として処理するようにチューニングされていると考えることもできます。そのため、英語本来の鋭い子音の響きが耳に届いても、脳がそれを言語情報として認識できず、無意識のうちに知っている日本語の音(カタカナ)に置き換えて処理してしまうのです。
これが「聞こえない音は発音できない」という発音習得の鉄則に繋がります。つまり、発音が難しいと感じるのは、あなたの舌が悪いのではなく、まず「耳」が英語の音を正しく捉えられていないことが根本的な原因なのです。まずは、この物理的な「聴覚の壁」があることを理解し、意識的に耳のチューニングを変えていく姿勢を持つことが、発音改善のスタートラインとなります。
英語と日本語の違いが生む壁
英語と日本語の間には、音の数(音素)や音節構造に圧倒的な差があり、これが日本人学習者を苦しめる大きな要因となっています。まず、母音の数を見てみましょう。日本語の母音は「あ・い・う・え・お」の5つだけですが、英語には方言や分類方法にもよりますが、一般的にReceived Pronunciation(英・標準発音)では約18〜20程度、General American(米語)では約12〜15程度の母音が存在すると言われています。
例えば、日本語で「ア」と聞こえる音だけでも、英語には以下のようなバリエーションがあります。
- /æ/ (hat):アとエの中間のような音
- /ɑ/ (hot):口を大きく開けた、深いアの音
- /ʌ/ (hut):短く鋭く発音するアの音
- /ə/ (about):口の力を抜いた、あいまいなアの音
これらの音は、それぞれ口の形も舌の位置も全く異なりますが、日本人の耳には全て同じ「ア」として処理されがちです。さらに、日本語は基本的に「子音+母音(例:か=k+a)」で一つの音を作る「開音節言語」ですが、英語は「子音だけ」で音が終わったり、子音が連続したりする「閉音節言語」です。
米国務省も認める「最も習得が難しい言語」
英語と日本語の構造的な距離は非常に遠く、アメリカ国務省の外交官養成局(FSI)が発表している「英語話者にとって習得が難しい言語ランキング」において、日本語は最も難易度の高い「カテゴリーIV(スーパーハード言語)」に分類されています。これは逆もまた然りで、日本人にとって英語は習得に最も時間を要する言語の一つだと言えます。
(出典:U.S. Department of State “Foreign Language Training”)
この構造的な違いにより、日本人は無意識に英語の子音の後に余計な母音(uやo)を付け足してしまい、「ストリート(su-to-ri-i-to)」のような「カタカナ英語」になってしまいます。この「日本語の枠」を外し、子音を子音のまま、息の音として処理する感覚を身につけることが、壁を突破する鍵となります。

アクセントとリズムの主な違い

発音の練習というと、多くの人は個々の音(LやR、THなど)の正確さに注目しがちですが、実は英語が通じない最大の要因は「リズム」と「アクセント」にあります。ここに、日本語と英語の決定的なリズム感の違いが存在します。
モーラ拍リズム vs 強勢拍リズム
日本語は「昔々あるところに(mu-ka-si-mu-ka-si…)」のように、全ての文字をほぼ均等な長さと強さで発音する「モーラ拍(シラブル)リズム」の言語です。一方、英語は「強勢拍(ストレス)リズム」と言い、文章の中で重要な単語(内容語)のアクセント部分を強く・長く発音し、それ以外の単語(機能語)を弱く・短く・あいまいに発音します。
| 言語 | リズムの特徴 | マクドナルドの発音例 |
|---|---|---|
| 日本語 | 全ての音を均等にハッキリ言う | マ・ク・ド・ナ・ル・ド(6拍) |
| 英語 | 強弱の波があり、強い音を中心にリズムを作る | Mc-Don-alds(3拍・Donを強く長く) |
この強弱の波に乗れないと、個々の単語の発音がいくら正確でも、ネイティブには「平坦でロボットのような話し方」に聞こえてしまい、どこが重要な情報なのかが伝わりません。英語は「音楽」に近いと考えてみてください。メロディやリズムが崩れると、どんなに良い歌詞(単語)でも曲として認識されないのと同じです。発音練習では、単語単体ではなく、文章全体のリズム(プロソディ)を意識することが大切です。
ネイティブ英語が早く感じる理由

リスニングにおいて「速すぎて聞き取れない」と感じる場合、それは話し手のスピードが速いことだけが原因ではありません。最大の原因は、英語特有の「音声変化(リエゾン)」のルールを知らないことにあります。
ネイティブスピーカーは、単語を一つ一つ辞書通りに区切って発音することは稀です。話す際のエネルギーを節約し、滑らかに話すために、前の単語の語尾と次の単語の語頭を繋げたり、発音しにくい音を脱落させたりします。これらの変化には一定のルールがあり、それを知っているかどうかが「英語耳」への分かれ道となります。
代表的な5つの音声変化パターン
- 連結(リンキング):子音と母音が繋がる現象。
例:Check it out → (k+i, t+oがつながる) - 脱落(リダクション):破裂音(p,b,t,d,k,g)が文末や子音の前で消える現象。
例:Good morning → (dが弱くなる) - 同化(アシミレーション):隣り合う音が混ざって別の音になる現象。
例:Could you → (d+yがjの音になる) - 短縮(コントラクション):二語が一語に縮まる現象。
例:I am → I’m, want to → wanna - 弾音化(フラッピング):母音に挟まれたTが /d/ のような音になる現象(米語)。
例:Water, Better
これらのルールを知らずに、文字通りの音を期待して待っていると、実際の音とのギャップに脳が混乱し「速すぎる」と感じてしまうのです。ネイティブのスピードについていくためには、速聴の練習をするのではなく、この「音が変化するルール」を体得し、自分でも再現できるようにする必要があります。自分がその変化を発音できるようになれば、不思議と相手のスピードもゆっくりに、そしてクリアに聞こえるようになります。
多くの日本人に発音が難しい音
日本語環境で育った私たちが特に苦戦するのは、日本語の50音図の中に代替となる音が存在しない子音です。特に代表的なものが「TH(θ/ð)」「F/V」「L/R」です。これらは口の形や舌の使い方が日本語とは根本的に異なるため、見よう見まねではなく、筋肉の動かし方を意識的にトレーニングする必要があります。
これらをマスターすることで、いわゆる「日本人訛り」から脱却し、より自然な英語の響きを手に入れることができるはずです。上記のだいじろーさんの動画でも日本人向けに分かりやすく発音のコツを紹介してくれているので、ぜひ参考にしてみてください。
TH(θ/ð)
「TH」は舌先を上下の歯で軽く挟み(あるいは上の歯の先に当て)、その隙間から息を摩擦させて出す音です。日本語には「舌を歯で挟む」という発音動作自体が存在しません。そのため、多くの日本人は無意識に「サ行(Think→Sink)」や「ザ行(This→Zis)」に置き換えてしまいます。
しかし、英語圏の人にとって「Think(考える)」と「Sink(沈む)」、「Mouse(ネズミ)」と「Mouth(口)」は全く別の単語です。この「カタカナ変換」を止めることが、正しい発音への第一歩です。最初は鏡を見ながら、大げさに舌を出して練習することをおすすめします。
Rの発音
「R」の発音について、「舌を巻く」と教わったことがあるかもしれませんが、実は過度に巻く必要はありません。舌先をどこにも触れさせず、舌全体を奥に引き込み(盛り上げ)、喉の奥から唸るように声を出すイメージです。日本語の「ラ行」は舌先が上あごに触れるため、どちらかといえば「L」に近い音です。「R」は「Right」であれば、小さな「ゥ」から始めて「(ゥ)ゥライト」のように発音するとネイティブの音に近づきます。
FとVの摩擦音
「F」と「V」は、上の前歯を下唇の内側に軽く当て、その隙間から息(F)または声(V)を出す摩擦音です。日本語の「ハ行」や「バ行」は唇同士を合わせる音ですが、F/Vは「歯と唇」を使います。下唇を噛む必要はありませんが、触れさせることが重要です。カタカナ英語のように発音してしまうと音がこもってしまい、ネイティブには通じにくくなります。
あいまい母音(schwa /ə/)
特に意識して練習すべきなのが、あいまい母音であるシュワ(schwa /ə/)」です。これは辞書の発音記号で「e」を逆さまにした記号で表され、英語で最も頻繁に使われる音です。口の力を完全に抜き、半開きの状態で、喉の奥から弱く短く「ア」のような音を出します。
英語では、アクセントのない母音の多くがこのシュワ音に変化します。例えば「Banana」は「バ・ナ・ナ」ではなく、「bə-NAN-ə(ブ・ナン・ヌ)」のように、最初と最後の「a」がシュワ音になります。この「脱力した音」を出せるようになることが、英語らしいリズムを作る一つのポイントだと言えます。
特に発音が難しい単語リスト

英語には、ネイティブスピーカーでさえ一瞬噛んでしまうような音の組み合わせの単語や、スペルと実際の発音が大きくかけ離れた「難読単語」が存在します。これらは、私たちが学校で習うローマ字読みやカタカナの知識だけで当てはめようとすると、全く通じないどころか相手を混乱させてしまう原因になりかねません。
特に、舌の位置を移動させる子音の連続や、日本語にはない母音の微妙な変化が含まれる場合、カタカナに置き換えることは不可能です。ここでは、多くの日本人に(そして時にはネイティブも)難しいとされる代表的な単語をピックアップしました。ご自身の発音を確認する際や口がスムーズに動くようになるための「発音トレーニング用リスト」としてもご活用ください。
| 単語 | 発音記号 (IPA) | 特徴やポイント | 発音確認用ページ |
|---|---|---|---|
| Rural | (US) /ˈrʊrəl/ (UK) /ˈrʊərəl/ | RとLが連続して現れるため、音が混ざりやすく区別がつきにくい代表的な単語。 | Rural | Cambridge Dictionary |
| World | (US) /wɜːrld/ (UK) /wɜːld/ | RからLへ音が続く構造のため、音がこもりやすく明瞭さを保つのが難しい。 | World | Cambridge Dictionary |
| Girl | (US) /ɡɜːrl/ (UK) /ɡɜːl/ | RとLが近接して含まれており、音が不明瞭になりがちな単語。 | Girl | Cambridge Dictionary |
| Squirrel | (US) /ˈskwɜːrəl/ (UK) /ˈskwɪrəl/ | 音が詰まるような感覚やR・Lの連続があり、リズムが独特で捉えにくい。 | Squirrel | Cambridge Dictionary |
| Sixth | (US) /sɪksθ/ (UK) /sɪksθ/ | [ks]と[θ]という子音が連続して重なるため、音が途切れず滑らかに言うのが難しい。 | Sixth | Cambridge Dictionary |
| Clothes | (US) /kloʊðz/ (UK) /kləʊðz/ | 子音が連続するが、実際の会話では音が省略され「Close」と同じ発音になることが多い。 | Clothes | Cambridge Dictionary |
| Months | (US) /mʌnθs/ (UK) /mʌnθs/ | 3つの子音が連続するため、音を詰まらせずに繋げるのが難しい。 | Months | Cambridge Dictionary |
| Jewelry | (US) /ˈdʒuːəlri/ (UK) /ˈdʒuːəlri/ | LとRが続いており、音の区切りやリズムが曖昧になりやすい。 | Jewelry | Cambridge Dictionary |
| Brewery | (US) /ˈbruːəri/ (UK) /ˈbrʊəri/ | RとWという性質の似た音が連続して登場するため、混同しやすい。 | Brewery | Cambridge Dictionary |
| Choir | (US) /ˈkwaɪər/ (UK) /ˈkwaɪə/ | スペルから実際の音を予測するのが非常に困難な例外的な単語。 | Choir | Cambridge Dictionary |
| Worcestershire | (US) /ˈwʊstərʃər/ (UK) /ˈwʊstəʃə/ | スペルの文字数に比べて、実際の音が極端に短くなる(大幅な音の脱落が起きる)。 | Worcestershire | Cambridge Dictionary |
| Drawer | (US) /ˈdrɔːr/ (UK) /ˈdrɔː/ | R音が連続するため、音が口の中でこもって響きやすい。 | Drawer | Cambridge Dictionary |
| Literature | (US) /ˈlɪtərətʃər/ (UK) /ˈlɪtrətʃə/ | アメリカ英語では音が変化・短縮されるため、スペルよりもかなり短く聞こえる。 | Literature | Cambridge Dictionary |
| Defibrillator | (US) /diːˈfɪbrɪleɪtər/ (UK) /diːˈfɪbrɪleɪtə/ | 単語自体が長く、さらにLとRが交互に登場するため混乱しやすい。 | Defibrillator | Cambridge Dictionary |
| Comfortable | (US) /ˈkʌmfərtəbl/ (UK) /ˈkʌmftəbl/ | 音の脱落(リダクション)により、スペルよりも音節の数が少なくなる。 | Comfortable | Cambridge Dictionary |
| Vegetable | (US) /ˈvɛdʒtəbl/ (UK) /ˈvɛdʒtəbl/ | 中間の音が発音されず、短縮されて3つのリズム(音節)で発音される。 | Vegetable | Cambridge Dictionary |
これらの単語は、一度で完璧に言えるようになる必要はありません。大切なのは、カタカナに頼らず、「舌がどう動けばその音が出るのか」というメカニズムに意識を向けることです。最初はゆっくりと、口の形を確認しながらリピートし、徐々にスピードを上げていくことで、英語特有の筋肉の使い方をマスターしていきましょう。
英語の発音が難しい人向けの練習方法

ここまで、英語の発音が難しいと感じる物理的・構造的な理由を解説してきました。原因が分かれば、解決策も見えてきます。高額な英会話スクールに通ったり海外留学をしたりしなくても、日々の意識と正しいトレーニングで「英語耳」や「英語口」を独学で作ることは可能だと言えます。ここからは、初心者から日々実践できるおすすめの練習方法について紹介していきます。
発音が難しい人向け練習のコツ
ネイティブのような自然な発音を手に入れるために最も重要な鍵は、「文字(スペル)への依存を断ち切り、音そのものとして受け取る」というプロセスへの転換です。私たちは長年の学校教育により、英語を聞くと瞬時に脳内でスペルを思い浮かべ、それをローマ字読みや既知のカタカナ音に変換して理解しようとする強力な癖がついています。
しかし、この「文字→日本語変換→理解」という回路が、英語独自の音を聞き取り再現する際のノイズとなり得ます。英語モードに切り替えるためには、以下の3つのステップを意識して、脳の処理プロセスを根本から書き換える必要があります。
1. 視覚情報を遮断し「耳」を優先する
赤ちゃんが言語を習得する際、テキストを読んで覚えることはありません。彼らは親の発する「音」と、目の前の「状況」を直接リンクさせて言葉を覚えます。大人になった私たちがこれを取り戻すには、まず「スクリプト(文字)を見ずに聞く」時間を意図的に作ることが不可欠です。
文字を見た瞬間、脳は無意識に「自分の知っている読み方」を優先してしまいます。例えば、「Water」という文字を見ると、実際の音がどうであれ、脳は慣れ親しんだカタカナの音を正解として採用しようとします。この視覚バイアスを外すために、まずは耳から入ってくる物理的な音の振動だけに全神経を集中させてください。
2. 言語ではなく「音」としてコピーする
聞こえてきた英語を「意味のある言葉」として分析しようとすると、どうしても日本語の文法や単語帳の知識が邪魔をします。発音練習の段階では、英語を言語としてではなく、「音楽」や「環境音」として捉える意識も有効です。
意味が分からなくても構いません。相手の声のトーン、高さ、リズム、息遣いまで、あたかもお気に入りの曲を鼻歌で歌うかのように、聞こえたままの「音響」を口で再現(ミミッキング)してください。意味の理解よりも音の再現(完コピ)を優先することで、日本語の干渉を受けずに、英語特有の筋肉の使い方を体が覚え始めます。
3. 翻訳回路を遮断し「イメージ」と直結させる
「Dog」という音を聞いたとき、脳内で「犬」という日本語の文字に変換していませんか?英語脳における発音とは、音と概念(イメージ)が直接結びついている状態を指します。
発音練習をする際は、日本語訳を思い浮かべるのを止め、その単語やフレーズが表す「情景」や「映像」を強くイメージしながら声に出してください。「Apple」と言うときは、赤い果実の映像を思い浮かべながら発音するのです。これにより、「音⇔イメージ」の神経回路が強化され、日本語を介在させない、感情や実感を伴った生きた英語の音が身につきます。

フォニックスとIPAの基礎知識

感覚的なアプローチに加えて、理論的な「補助輪」として役立つのが「フォニックス」と「IPA(国際音声記号)」です。これらを学ぶことで、音のルールが見える化され、迷いや不安が解消されます。
フォニックス:綴りと音のルール
フォニックス(Phonics)は、英語圏の子供たちが読み書きを覚える際に学ぶ「綴りと発音の規則性」です。例えば、「a」は「ア」、「b」は「ブ」といった音を持つことを学びます。これを知っていると、初めて見る単語でも、綴りを見るだけで約7割は正しく発音できるようになります。「cake」の「e」は読まない(サイレントE)などのルールを知るだけで、読み間違いが激減します。
IPA:音の正確な地図
一方、IPAは辞書の発音欄に載っている記号のことです。全ての記号を完璧に覚える必要はありませんが、特に日本語にない音(θ、ð、ʃ、ʒ、ŋ、æ、ʌ、əなど)の記号だけでも理解しておくと役立ちます。耳だけでは「ア」に聞こえてしまう音も、辞書で「/æ/」と書いてあれば、「ああ、これは口を横に開けて潰した音だな」と視覚的に判断できます。IPAは、耳が迷子になったときに正しい位置へ導いてくれる「音の地図」のような存在です。
初心者がまずは実践したい練習

発音学習の初心者が、まず最初にやるべきことは何でしょうか。それは、参考書を買うことでも、英会話を始めることでもなく、「自分の声を録音して聞くこと」です。これは多くの人が嫌がる行為ですが、最も効果的なフィードバック方法です。
人間の骨伝導で聞く自分の声と、空気を伝わって相手に聞こえている声には、大きなズレがあります。自分が「かっこよく発音できている」と思っていても、録音を聞くと「全然できていない」「カタカナ英語そのものだ」と愕然とすることがあります。しかし、この「ズレ」を客観的に認識することこそが、改善への第一歩です。
また、最初から長い文章や早口言葉に挑戦せず、単語一つや短いフレーズ単位で、口の形や舌の位置を鏡で確認しながら丁寧に練習することをおすすめします。スポーツと同じで、基礎的なフォームを固めることが、後の上達スピードを加速させます。
最初は自分の英語の下手さや声の違和感に落ち込むかもしれませんが、それは誰もが通る成長のための通過儀礼とも言えます。現状を正しく認識できなければ修正もできないので、気にせずに練習していきましょう。
発音が良くなるトレーニング例

英語の発音を改善するために最も重要なのは、知識を詰め込むことではなく、実際に口を動かして筋肉を鍛えることです。発音練習は「勉強」というよりも、スポーツや楽器の練習に近い「フィジカルトレーニング(筋トレ)」だと捉えてください。ここでは、プロの通訳者も実践する「シャドーイング」に加え、効果的なトレーニング方法をいくつか紹介します。これらを日常に取り入れることで、英語仕様の発音へと切り替える際の役に立ちます。
1. 定番のトレーニング「シャドーイング (Shadowing)」
シャドーイングとは、聞こえてくる英語の音声を、影(シャドー)のように0.5秒ほど遅れて追いかけ、そのまま真似して発声する練習法です。最初はスクリプト(台本)を見ながら行っても構いませんが、最終的にはテキストを見ずに、耳から入ってくる音だけを頼りに行います。
シャドーイングを行うことで、個々の単語の発音だけでなく、自分一人では練習しにくい「英語特有のリズム」「イントネーションの波」「息継ぎのタイミング」「音声変化」までを、丸ごと体得することができます。1日10分〜15分でも構わないので、好きな映画のワンシーンや英語学習用のポッドキャストなどを使って「英語の口」を動かす習慣をつけるのもおすすめです。継続することで口周りの筋肉が英語仕様に変わり、徐々に滑らかに話せるようになるはずです。
2. スピードとリズムを同化させる「オーバーラッピング (Overlapping)」
シャドーイングが難しすぎると感じる場合や、ネイティブのスピードにどうしても追いつけない場合は、「オーバーラッピング」が有効です。これは、スクリプトを見ながら、モデル音声と「完全に同時に」声を重ねて読む練習法です。
シャドーイングが「追いかける」のに対し、オーバーラッピングは「ぴったり重なる」ことを目指します。ネイティブの音声に自分の声を被せることで、自己流の間違ったリズムや、無駄な母音の挿入(カタカナ発音)があると、ズレてしまって上手く重なりません。強制的にネイティブのスピード感で口を動かすことになるため、口周りの脱力が進み、滑らかな発音が身につきます。
3. 口の筋力を鍛える「タングツイスター (Tongue Twisters)」
特定の音が苦手な場合や、口が回らないと感じる場合は、英語の早口言葉である「タングツイスター」を取り入れてみるのもおすすめです。これは遊びのように思えるかもしれませんが、舌や唇の筋肉の柔軟性と瞬発力を鍛えるための非常に優れた筋トレにもなります。
タングツイスターの例
- RとLの切り替え練習:
“Red lorry, yellow lorry.”
これを崩れずに3回連続で言えるようになるまで繰り返します。 - SとSHの摩擦音練習:
“She sells seashells by the seashore.”
舌の位置を素早く移動させる力が養われます。
これらのフレーズを最初はゆっくりと正確に発音できるようにして、徐々にスピードを上げて言えるように練習しましょう。また、英語学習の息抜きとして友達と楽しみながら試してみるのも良いでしょう。以下のページでは上記の例文の発音に加えて、他にも多くのタングツイスターを紹介してくれています。

発音を良くするアプリやサイト

かつて、正確な発音矯正を受けるには高額な英会話スクールに通い、マンツーマンで講師の口元を見ながら指導を受けるしかありませんでした。しかし現在は、AI技術や動画コンテンツの爆発的な進化により、スマートフォン一台あれば、独学でも留学レベルの「発音矯正環境」を構築することが可能です。
自分の発音をAIが瞬時に解析して数値化したり、ネイティブの口の動きをマイクロスコープ映像のように確認したりと、現代の学習ツールを使いこなすことで、学習効率は劇的に向上します。ここでは、数あるツールの中から、特に発音向上に効果的なものを厳選して紹介します。
生きた英語の発音「学習サイト」
辞書的な発音ではなく、実際の文脈の中でどのように単語が発音されているかを確認するには、データベース型のサイトが役立ちます。
- Forvo
世界最大の発音ガイドサイト。公式の辞書音声だけでなく、一般のネイティブスピーカーが投稿した自然な発音を聞くことができます。地域(アメリカ、イギリス、オーストラリアなど)ごとの訛りの違いを聞き比べるのにも便利です。
(Forvo 公式) - YouGlish
YouTube上の膨大な動画データから、検索した単語やフレーズが使われているシーンだけをピンポイントで再生できるツールです。例えば「Water」と検索すれば、異なるネイティブが様々な文脈やスピードで「Water」と発音している場面を連続して視聴できます。
(YouGlish 公式)
視覚で学ぶ「YouTubeチャンネル」
発音は「口の形」と「舌の動き」が全てです。動画であれば、口の中の構造や舌の動きをアニメーションやアップ映像で確認できるため、イメージのズレを修正するのに最適です。
- Rachel’s English(レイチェルズ・イングリッシュ)
アメリカ英語の発音解説において世界的に有名なチャンネル。スローモーション映像や口腔内の図解を使って、ネイティブがどのように音を出しているかを極めて論理的に解説しています。全編英語ですが、見るだけでも価値があります。
(Rachel’s English チャンネル) - Pronunciation with Emma
こちらはイギリス英語(RP:容認発音)に特化したエマ先生のチャンネル。IPA(国際音声記号)に基づいた解説が特徴で、発音のポイントを丁寧に教えてくれます。イギリス英語特有の音の出し方やリズムを学びたい人には最適な教材となります。
(Pronunciation with Emma チャンネル) - mmmEnglish
オーストラリア出身のエマ先生によるチャンネル。「Imitation Technique(模倣テクニック)」という独自のアプローチで、発音だけでなく、自然な表現力や自信をつけるためのトレーニング動画が豊富です。クリアで聞き取りやすい英語なので初心者にもおすすめです。
(mmmEnglish チャンネル) - あいうえおフォニックス
可愛らしいアニメーションで、日本人には聞き取りにくい音の違い(LとR、SとTHなど)を分かりやすく解説しています。初心者の方をはじめ、子供から大人まで楽しみながら発音のコツを掴める人気チャンネルです。
(あいうえおフォニックス チャンネル)
AIが発音パートナーになる「アプリ」
独学の最大の弱点は「自分の音が合っているかどうかが分からない」ことです。最新のアプリはこの問題を解決し、発音のズレやリズムの違和感を客観的に指摘してくれます。
- ELSA Speak
世界で最も評価されている発音矯正アプリの一つです。AIがあなたの発音をネイティブ音声と比較し、音素単位で一致率を数値化してくれます。発音に関するフィードバック機能もあるため、練習する際の参考にすることができます。 - Speak(スピーク)
シリコンバレー発のAI英会話アプリ。発音だけでなく、実際の会話フローの中でどれだけ自然に話せているかを判定します。スピーキングの実践練習と同時に発音チェックを行いたい人に最適です。
まずはYouTubeで口の動きを目で確認し、アプリで自分の発音をチェックする。このように複数のツールを組み合わせることで、独学でも質の高い発音トレーニングが可能になります。まずは無料のものから試して、自分に合う学習スタイルを見つけていきましょう。


総括:英語発音が難しい理由と練習法
最後に、技術と同じくらい大切なのが「マインドセット(心構え)」です。「英語の発音は難しい」「ネイティブのように完璧でなければならない」「間違ったら恥ずかしい」という思い込みは捨てるようにしましょう。
皆さんもご存知のように、世界中で話されている英語(Global English)には様々なアクセントや訛りがあります。シンガポールの英語、インドの英語、オーストラリアの英語など、それぞれに特徴があり、どれも立派な英語です。完璧なアメリカ英語やイギリス英語を目指して萎縮する必要はありません。
特に大切なのは「相手に伝わるクリアな発音」です。多少の日本語訛りがあっても、リズムや強勢(アクセント)、そして母音の区別が正しければ、十分に相手に通じ、深いコミュニケーションが可能です。「発音は難しい修行」と構えるのではなく、「新しい歌や楽器を練習するようなもの」と捉えてみてください。ご自身のペースで楽しみながらマスターしていけば、着実にあなたの言葉として使いこなせるようになっていくはずです。






