「一生懸命、英語の勉強をしているのに、肝心のリスニングが聞き取れない…」そんな経験から、英語が聞き取れないことにイライラを感じていませんか。時間をかけているにもかかわらず、ネイティブの会話が早口の雑音に聞こえたり、単語は知っているはずなのに文章になると全く理解できなかったりすると、強いストレスを感じて悔しい気持ちになり、時には泣きたくなることもあるでしょう。
その結果、「自分は根本的に英語ができない、わからないのかもしれない」と自信を失ったり、「もしかしたらリスニングができないのは、自分の耳が悪いせいでは?」とあらぬ不安を抱いたりすることもあるかもしれません。しかし、その悩みはあなたの能力や努力が不足しているからではないのです。
この記事では、科学的な視点に基づき、日本人が英語のリスニングに苦戦する本当の理由を解き明かします。そして、従来の学習方法のコツを見直し、英語を日本語に訳さず直接理解する「英語脳」を育てるという新しいアプローチを提案します。具体的には、大量の英語に触れる「多聴」や、聞いた音を即座に真似る「シャドーイング」といった効果的なトレーニング、そして学習を継続させるための最適な教材の選び方から、実際に英語が聞き取れるまでの期間の目安まで、あなたの抱えるあらゆる疑問や不安を解消するための情報を網羅的にお届けします。
- 英語が聞き取れない根本的な原因
- リスニング力を伸ばす「英語脳」という考え方
- 多聴やシャドーイングなど具体的な学習方法
- 学習を継続するためのモチベーション管理のコツ
英語が聞き取れないイライラの原因とは

- なぜリスニングが聞き取れないのか
- ストレスで悔しい、泣くほどの悩み
- 英語ができない、わからないと感じる理由
- リスニングできないのは耳が悪いせい?
なぜリスニングが聞き取れないのか
英語が聞き取れない最大の原因は、個人の能力不足ではなく、日本語と英語という二つの言語が持つ「音のシステム」の根本的な違いにあります。この違いを理解することが、リスニング攻略の第一歩となります。
まず、音の最小単位である「音素」の数が異なります。日本語の音素が約26個であるのに対し、英語には母音・子音を合わせて44個以上存在すると言われています。特に母音は、日本語が「ア・イ・ウ・エ・オ」の5つしかないのに対し、英語には「cat」と「cut」のように、日本人には同じ「ア」に聞こえがちな微妙な違いを持つ母音が20種類以上あります。私たちの脳は、知らない音を聞くと、無意識に自分の母語にある最も近い音に当てはめてしまうため、これらの違いを聞き分けるのが難しいのです。
さらに、文章のリズム構造も全く異なります。日本語は、一文字一文字がほぼ同じ長さで発音される「モーラタイミング言語」であり、全体的に平坦なリズムが特徴です。一方で、英語は重要な単語(内容語)を強く、長く、はっきりと発音し、そうでない単語(機能語)は弱く、速く、曖昧に発音する「ストレスタイミング言語」です。このため、英語の音声はまるで音楽のような強弱の波を持ちます。日本語の感覚で全ての単語を平等に聞き取ろうとすると、弱く発音された機能語が抜け落ち、文全体の意味が掴めなくなってしまうのです。
日英語の音声システムの違い
リスニングの壁を理解する鍵は、音素の数、音節の構造(開音節 vs 閉音節)、そしてリズムの取り方(モーラタイミング vs ストレスタイミング)という、言語学的な根本差異にあります。
このように、私たちが「英語が聞き取れない」と感じるのは、日本語用に最適化された脳のOSで、全く異なるシステムの英語のデータを処理しようとしているためです。したがって、このOS自体をアップデートするアプローチが必要になります。
以下では英語と日本語の違いを言語的な観点から解説しています。

ストレスで悔しい、泣くほどの悩み

リスニングができないことで感じる強いストレスや、「悔しい」「もうやめたい」といった感情は、決してあなただけが抱えるものではありません。多くの学習者が同じ悩みを経験しており、その背景には「外国語不安(Foreign Language Anxiety)」と呼ばれる心理的な要因が深く関わっています。
これは、言語学習、特にリアルタイムでの応答が求められるリスニングやスピーキングの場面で生じやすい特有の不安です。「聞き取れなかったらどうしよう」「間違えたら恥ずかしい」といった他者からのネガティブな評価への恐れや、自信の欠如が、脳の認知能力を妨げ、パフォーマンスを低下させてしまうのです。
「完璧に聞き取れないとダメだ」というプレッシャーが、かえって聞き取りを妨げてしまうことはよくあります。少し聞き取れない部分があっても、パニックにならずに全体を掴もうとすることが大切です。
特に、日本の教育環境で育った私たちは、「間違いは悪である」という価値観や、完璧主義を内面化しやすい傾向があります。この「完璧でなければならない」というプレッシャーが、心理的な壁(専門的には情意フィルター)を高くし、耳から入ってきた音声を脳が処理するのを妨害してしまうのです。リスニング中に少しでも分からない単語があると、思考が停止してしまい、その後の音声が全く頭に入ってこなくなるのは、この典型的な症状と言えるでしょう。
しかし、この悩みは、考え方を少し変えることで克服できます。言語学習における間違いは「失敗」ではなく、自分の弱点を教えてくれる貴重な「データ」です。この事実を受け入れ、完璧主義を手放すことが、ストレスを軽減し、学習を前進させるための鍵となります。

英語ができない、わからないと感じる理由

「単語も文法も勉強したはずなのに、なぜか英語が聞き取れない」と感じるのは、言語能力における「知識」と「スキル」の違いを混同しているからかもしれません。
日本の英語教育は、伝統的に単語の暗記や文法規則の理解といった「知識の学習(Learning)」に重点を置いてきました。これにより、多くの学習者は、文章を読めば意味を理解できるだけの豊富な知識を持っています。しかし、リスニングは、その知識をリアルタイムで瞬時に処理し、意味を理解するという「運用スキル(Acquisition)」が求められる活動です。
例えば、「I have to go to the store.」という簡単な文でさえ、ネイティブが自然なスピードで話すと、「Ihavetogotothestore.」のように全ての単語が連結し、一部の音は脱落・変化します。文字で見れば瞬時に理解できるこの文も、音として認識するためには、こうした音声変化のパターンを知り、脳が自動的に処理できるレベルまで慣れておく必要があります。
「わかる」と「できる」の壁
リスニングができないのは、知識が足りないからではなく、音声を知覚し、意味に結びつける処理速度が、ネイティブの話すスピードに追いついていないことが主な原因です。これは、知識を運用可能なスキルへと転換するトレーニングが不足していることを示しています。
つまり、「英語ができない、わからない」と感じる根本的な原因は、蓄積した知識を瞬時に引き出し、音声情報と結びつける脳の処理回路(神経回路)が十分に構築されていないことにあるのです。この回路は、単に知識をインプットするだけでは鍛えられません。実際に大量の英語を聞き、脳を音声処理に慣れさせるという、スキル面のトレーニングが不可欠となります。
リスニングできないのは耳が悪いせい?

「何度聞いても聞き取れない。もしかして自分の耳に問題があるのでは?」と心配になる方もいるかもしれませんが、医学的な問題がない限り、リスニング能力と耳の良し悪しに直接的な関係はありません。聞き取れない原因は、耳の性能ではなく、脳の「音の認識の仕方」にあります。
実は、言語ごとに主に使用される音の「周波数帯域」が異なることが研究で示されています。日本語の音声が主に125Hzから1,500Hzという比較的低い周波数帯に集中しているのに対し、英語、特に/s/, /θ/, /f/といった摩擦音は、2,000Hzから12,000Hzという非常に高い周波数帯の成分を多く含みます。
日常的に日本語の低い周波数帯に慣れ親しんだ私たちの脳は、この英語特有の高周波音を、意味のある「言語音」としてではなく、単なる「雑音」や「ノイズ」として処理してしまう傾向があるのです。これが、「ネイティブの英語が、まるでサッサッという雑音のように聞こえる」という現象の一因と考えられます。
脳の「音のフィルタリング機能」
私たちの脳は、効率的に情報を処理するため、日常的に使わない音の情報を無意識のうちにフィルタリングしています。英語を聞き取るためには、このフィルターを再調整し、英語特有の高周波音を重要な情報として認識できるように、脳をトレーニングし直す必要があります。
このように、リスニングができないのは耳のせいではなく、脳が日本語の音響特性に最適化されているためです。逆に言えば、適切なトレーニングを通じて、脳を英語の周波数帯に慣れさせていけば、これまでノイズにしか聞こえなかった子音の区別が明確になり、聞き取り能力は飛躍的に向上する可能性があるのです。
英語が聞き取れないイライラを解消する学習法

- 英語脳を育てるという新しいアプローチ
- 効果的な英語の勉強を始めよう
- まずは多聴で英語の音に慣れること
- シャドーイングで聞き取り能力を鍛える
- 上達への学習方法と続けるコツ
- リスニング学習におすすめの教材
- 聞き取れるまでの期間と現実的な目標
英語脳を育てるという新しいアプローチ
リスニングの壁を根本的に乗り越えるための鍵、それが「英語脳」を育てるという考え方です。英語脳とは、聞いた英語をいちいち日本語に翻訳せず、英語の語順のまま、英語の音のままダイレクトに意味を理解する脳の状態を指します。
従来の学校教育で身についた「英語→日本語への翻訳」という思考回路は、リスニングにおいて大きな足かせとなります。ネイティブの話すスピードは1分間に150〜180語程度と言われており、この速度で飛んでくる情報を一度日本語に変換していては、脳の処理が到底追いつきません。これが「意味を考えているうちに、次の英文が始まってしまう」という現象の正体です。
英語脳のメリット
- 処理速度の向上:翻訳プロセスを介さないため、ナチュラルスピードの英語にも余裕を持って対応できるようになります。
- ニュアンスの正確な理解:日本語訳では失われがちな、英語本来の細かなニュアンスや文化的な背景をそのまま受け取ることができます。
- 思考の英語化:リスニングだけでなく、スピーキングやライティングにおいても、より自然で英語らしい表現がスムーズに出てくるようになります。
この英語脳を育成するためには、意識的な文法学習や暗記ではなく、子どもが母語を身につけるプロセスに近い、無意識的な「習得(Acquisition)」を促す必要があります。第二言語習得研究の第一人者であるスティーブン・クラッシェン博士は、言語の習得は「理解可能なインプット(Comprehensible Input)」、つまり、自分の現在のレベルより少しだけ上のレベルの、意味が推測できる英語に大量に触れることで自然に起こると提唱しています。(参考:第二言語習得5つの仮説)
したがって、リスニング力を飛躍的に向上させるには、単語や文法を「勉強」するという意識から、英語の音のシャワーを浴びて脳を慣れさせ、英語で考える回路を「育てる」という意識へと、パラダイムシフトすることが不可欠です。
以下の記事では英語脳や学習アプローチについてより詳しく紹介しています。

効果的な英語の勉強を始めよう

英語脳を育てるという目標を達成するためには、これまでの英語の勉強法を根本から見直す必要があります。多くの日本人学習者が慣れ親しんだ、参考書の問題を解いたり、単語帳をひたすら暗記したりする学習法は、残念ながらリスニングスキル向上には非効率的な場合があります。
これらの学習法は、主に「文法訳読方式」と呼ばれるもので、文法知識を蓄積し、文章を正確に翻訳する能力を高めることには長けています。しかし、これは前述の通り、英語を日本語を介して理解する回路を強化するものであり、英語を直接理解する「英語脳」の育成とは逆行するアプローチになりかねません。
効果的な英語の勉強とは、英語を「学習科目」としてではなく、「コミュニケーションの道具」として捉え、実際に音声を「使う」トレーニングに時間を割くことです。具体的には、以下の二つの柱を意識することが大切です。
インプットの「量」を最大化する
英語脳の回路を作るためには、脳が英語の音のパターン、リズム、イントネーションを「当たり前のもの」として認識するまで、圧倒的な量の英語を聞くことが必要です。これは、質より量を優先する段階であり、完璧な理解を目指す必要はありません。
インプットの「質」を高める
ただ聞き流すだけでなく、特定の音声変化(例:単語の連結や脱落)や、聞き取れなかった箇所に意識を向け、それを正確に再現しようとするトレーニングも重要です。これにより、音声を知覚する解像度が上がり、よりクリアに英語が聞こえるようになります。
「勉強したつもり」に注意
問題集を解いて正解・不正解に一喜一憂したり、解説を読んで納得したりする時間は、実際のリスニング能力向上には直結しにくいです。その時間を、1分でも多く生の英語を聞く時間や、口を動かす時間に充てる方が、はるかに効果的と言えるでしょう。
これまでの「正解を探す勉強」から、「音に慣れる・真似るトレーニング」へと意識を切り替えること。これが、効果的な学習への第一歩となります。
まずは多聴で英語の音に慣れること

英語脳を育成するための基本的かつ効果的なトレーニングが「多聴(Extensive Listening)」です。多聴とは、一つの教材を深く分析する「精聴」とは対照的に、内容が比較的簡単な英語の音声を、細部にこだわらず大量に聞き流す学習法を指します。
その最大の目的は、前述した英語特有の音(音素)、リズム、イントネーション、そしてリエゾン(連結)やリダクション(脱落)といった音声変化のパターンに、脳を徹底的に慣れさせることです。これにより、意識的に努力しなくても英語の音声を自動的に処理できる能力、すなわち「音声知覚の自動化」が促進されます。これは、英語のOSを脳にインストールする作業に似ています。
多聴の実践方法とコツ
素材選び
成功の9割は素材選びで決まります。最も重要な基準は、辞書なしで内容の70%〜95%程度を大まかに理解できる、少し易しいレベルの素材を選ぶことです。そして何より、自分が「面白い」「もっと聴きたい」と心から思える、夢中になれるコンテンツを選びましょう。
聴き方
多聴は完璧な理解を目指す活動ではありません。細かい単語が分からなくても、決して音声を止めたり、すぐに意味を調べたりしないでください。まずは、物語の筋や話の要点を追いかけることに集中します。BGMのようにただ聞き流すだけでも、英語の音韻パターンを脳に刷り込む効果が期待できます。
習慣化
多聴の最大の利点は「ながら学習」に適している点です。通勤・通学中、家事をしている時間、ウォーキング中など、日常生活の「耳が空いている時間」を全て英語のインプット時間に変えることができます。1日15分でも良いので、毎日続けることが膨大なインプット量につながります。
最初は字幕やスクリプトを補助的に使って内容理解を助けても構いません。大切なのは、毎日英語の音に触れる習慣を作ることです。徐々に字幕への依存度を減らし、耳からの情報だけで理解しようと挑戦していきましょう。
多聴は、リスニング学習の土台作りです。この土台がしっかりして初めて、後述するシャドーイングのような、より負荷の高いトレーニングが効果を発揮されると言えるでしょう。
シャドーイングで聞き取り能力を鍛える

多聴で英語の音の全体像に慣れてきたら、次に取り組みたいのが「シャドーイング(Shadowing)」です。シャドーイングとは、英語の音声を聞きながら、ほんの少し(1〜2語程度)遅れて、まるで影(shadow)のように発音を真似し続けるトレーニング法を指します。
このトレーニングは、通訳の養成課程でも用いられるほど効果が高く、特にリスニングにおける「音声を知覚する力」を直接的に鍛えるのに極めて有効です。音声を聞き、それを即座に自分の口で再現するという一連のプロセスは、脳内で音と意味を結びつけるメカニズムを強力に刺激し、これまで聞き取れなかった音声変化のパターンを明確に認識できるようになります。
初心者のためのシャドーイング・ステップ例
シャドーイングは負荷が高いため、手順を踏むことが成功の鍵です。
- 素材準備:30秒〜1分程度の、スクリプトが入手可能な、内容が8割方理解できる教材を選びます。
- リスニング:まずはスクリプトを見ずに、音声を何度も集中して聴き耳を鳴らします。
- シャドーイング(スクリプトなし):スクリプトを見ずに、耳から入る音声だけを頼りにシャドーイングします。つっかえても気にせず、音声の流れに食らいついていくことが大切です。
- シャドーイング(スクリプトあり):分からない部分はスクリプトを確認しながらシャドーイングを行います。
- オーバーラッピング:スクリプトを見ながら、音声と完全にタイミングを合わせて音読します。
- 内容理解(精読):スクリプトを読み、知らない語彙や表現を調べ、内容を理解します。
- 録音と自己分析:自分のシャドーイングを録音し、お手本の音声と聴き比べ、発音やリズムの違いを客観的に分析・修正します。
シャドーイングでよくある失敗は、口が回らずついていけないことや、意味が頭に入ってこないことです。ついていけない場合は、教材のレベルを下げたり、再生速度を0.8倍速に落としたり、ステップ5のオーバーラッピングを徹底的に繰り返すことが有効です。また、意味が頭に入ってこない場合でも、焦らずに続けることで徐々にリスニングや理解力がついてくるはずです。
多聴がインプットの「量」を確保するトレーニングだとすれば、シャドーイングはインプットの「質」と「解像度」を高めるトレーニングです。この二つを組み合わせることで、リスニング能力は飛躍的に向上していきます。
以下でもシャドーイングのやり方や効果について詳しく解説しています。

上達への学習方法と続けるコツ

効果的な学習方法を知っていても、それを継続できなければ意味がありません。英語学習という長い旅路では、モチベーションの維持が最も難しい課題の一つです。ここでは、挫折せずに学習を続けるための心理的なコツをいくつかご紹介します。
「成長マインドセット」を持つ
心理学者キャロル・ドゥエックが提唱する「成長マインドセット(Growth Mindset)」は、学習を継続する上で非常に強力な考え方です。これは、「自分の能力は努力や挑戦によって伸ばすことができる」と信じる姿勢を指します。「自分には語学の才能がない」と考える「固定マインドセット」ではなく、「今はできないだけだ」と捉え、困難を成長の機会と見なすことが大切です。
リスニングが難しいと感じることは、まさにあなたの脳が新しい神経回路を構築し、成長している証拠です。その負荷を歓迎するマインドセットを持つことで、停滞期(プラトー)も前向きに乗り越えることができます。
目標を細分化し「小さな成功」を積み重ねる
「ネイティブの映画を字幕なしで観る」といった壮大な目標だけでは、道のりが長すぎて挫折しやすくなります。そこで、「今日はポッドキャストを5分だけ聞く」「シャドーイングでこの一文だけは完璧に言えるようにする」など、具体的で達成可能な小さな目標(スモールウィン)を設定しましょう。この小さな成功体験を毎日積み重ね、それを自分で認めてあげることが、自信と持続的なモチベーションにつながります。
学習を「習慣」にする
モチベーションのような移ろいやすい感情に頼るのではなく、学習を生活の一部である「習慣」にしてしまうのが最も確実な方法です。「朝起きたら、まず英語のニュースを一つ聞く」のように、既存の生活習慣に新しい学習行動を紐付ける「ハビット・スタッキング」という手法は非常に有効です。意志の力に頼らず、自動的に学習を開始できる仕組みを作りましょう。
休息もトレーニングのうち
燃え尽き症候群を防ぐためには、休息も重要です。疲れているときは無理をせず、勇気を持って休みましょう。また、同じ学習の繰り返しに飽きたら、教材を変えたり、学習方法を変えたりして、常に新鮮な気持ちで英語に触れる工夫も効果的です。
上達への道は一直線ではありません。これらのコツを活用し、学習プロセスそのものを楽しみながら、長期的な視点で取り組んでいきましょう。
リスニング学習におすすめの教材

現代は、インターネットを通じて質の高い英語学習リソースに無料でアクセスできる恵まれた時代です。ここでは、多聴やシャドーイングに最適で、初心者からでも安心して使えるおすすめの教材をレベル別にご紹介します。
初心者向け:学習者用に調整されたコンテンツ
初学者の段階では、発音がクリアで話すスピードがゆっくりな、英語学習者向けに制作されたコンテンツから始めるのが最も安全で効果的です。
- VOA Learning English: アメリカの国営放送が提供する学習者向けニュース。語彙が制限され、通常よりゆっくりしたスピードで話されるため、非常に聞き取りやすいのが特徴です。スクリプトも完備されています。
- BBC 6 Minute English: イギリスのBBCが提供する、毎週異なるトピックについて6分間でディスカッションする番組。スクリプトと重要単語リストがあり、イギリス英語の入門に最適です。
- 子ども向けアニメ(例: Peppa Pig): 使われる語彙や文法が基本的で、日常的な家族の会話が中心のため、楽しみながら英語の基本パターンを学べます。
中級者向け:学習者向けとネイティブ向けの組み合わせ
学習者向けコンテンツが簡単に感じてきたら、徐々にネイティブ向けのコンテンツにも挑戦していきましょう。
- TED Talks: 様々な分野の専門家による質の高いプレゼンテーション。多様なアクセントに触れる絶好の機会で、多くのトークにスクリプトが提供されています。興味のある分野から選べるのも魅力です。
- All Ears English Podcast: 「Connection NOT Perfection!」をモットーに、アメリカの文化や日常で使われる自然な表現を学べるポッドキャスト。エネルギッシュな会話で、楽しく学習を続けられます。
上級者向け:ネイティブ向けの多様なコンテンツ
このレベルでは、学習の主軸を完全にネイティブ向けのコンテンツへと移行させます。
- 海外ドラマや映画: 自分の好きなジャンルの作品を、まずは英語字幕で、慣れてきたら字幕なしで視聴します。『Friends』のようなストーリーは、日常会話の宝庫です。
- 各種ポッドキャスト: ニュース、コメディ、インタビューなど、自分の興味に合わせて様々なジャンルの番組を聞くことで、語彙力や背景知識を広げることができます。
教材選びで最も大切なのは、あなたのレベルに合っていて、かつ「面白い」と感じられることです。色々と試してみて、自分が夢中になれる「お気に入りの教材」を見つけることが、学習を長続きさせる最大の秘訣です。
以下でも初心者から上級者まで使えるリスニング素材を多く紹介しています。

聞き取れるまでの期間と現実的な目標

「一体、どのくらい学習すれば英語が聞き取れるようになるのか?」これは、全ての学習者が抱く切実な問いです。残念ながら万人に共通する明確な答えはありませんが、国際的な言語能力の指標を用いることで、現実的な見通しを立てることが可能になります。
その指標となるのがCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)です。CEFRは外国語の習熟度をA1(初心者)からC2(熟達者)までの6段階で評価する世界共通の物差しです。これを用いることで、自分の現在地と目標を客観的に把握できます。
CEFRレベルとリスニング能力の目安
- A2レベル(初級): 自分に関する基本的な情報や、簡単なアナウンスの要点を捉えることができる。
- B1レベル(中級): 仕事や学校など、身近な話題について標準的な話し方であれば主要な点を理解できる。
- B2レベル(中上級): 複雑な議論の筋を追うことができ、ほとんどのテレビニュースや映画を理解できる。「流暢さ」の入り口と言えるレベル。
多くの日本人学習者にとって、当面の目標となるのは「B1」、そしてビジネスや留学で通用するレベルを目指すなら「B2」が一つの大きなマイルストーンとなるでしょう。
ケンブリッジ大学などの研究機関は、CEFRのレベルを1段階上げるために必要とされる学習時間の目安を提示しています。
目標レベル | ゼロからの累積学習時間(目安) | 前のレベルからの追加学習時間(目安) |
---|---|---|
A2到達 | 180–300 時間 | 90–150 時間 |
B1到達 | 350–500 時間 | 170–200 時間 |
B2到達 | 500–700 時間 | 150–200 時間 |
C1到達 | 700–950 時間 | 200–250 時間 |
停滞期(プラトー)を理解する
上記の時間はあくまで目安です。特に、B1からB2への移行期は、知識の蓄積だけでなく、脳の処理速度の自動化という質的転換が求められるため、最も成長を実感しにくい「停滞期(プラトー)」に陥りやすいです。「こんなにやっているのに上達しない」と感じても、それは次の飛躍への準備期間です。焦らず、学習を継続することが何よりも大切です。
このロードマップを参考に、非現実的な期待で自分を追い詰めるのではなく、長期的な視点で着実にステップアップしていく計画を立てましょう。
総括:英語が聞き取れないイライラの原因と解決策
記事のポイントをまとめます。
- 英語が聞き取れない原因は能力不足ではなく、日本語と英語の音のシステムの違いにある
- 完璧主義や間違いへの恐れが、心理的な壁となり聞き取りを妨げることがある
- リスニング力向上には、英語を日本語に訳さず直接理解する「英語脳」の育成が鍵となる
- 英語脳の育成には、大量の「理解可能なインプット」に触れることが不可欠である
- 具体的なトレーニングとして、インプットの「量」を稼ぐ「多聴」が基本となる
- インプットの「質」を高める「シャドーイング」を組み合わせると効果が飛躍的に向上する
- シャドーイングは、内容を100%理解してから正しい手順で行うことが重要である
- 学習の継続には、モチベーションに頼らず「習慣化」する仕組み作りが有効である
- 「能力は努力で伸ばせる」と信じる「成長マインドセット」を持つことが大切である
- 教材は、自分のレベルに合い、かつ「面白い」と感じられるものを選ぶことが長続きの秘訣である
- 初心者はいきなりネイティブ向けのコンテンツに挑戦せず、学習者向けの教材から始める
- 上達には時間がかかることを受け入れ、CEFRなどの指標で現実的な目標を設定する
- 特にB1からB2への移行期には、成長が停滞して感じる「プラトー」があることを知っておく
- リスニング学習は「正解を探す勉強」ではなく「音に慣れるトレーニング」と捉える
- 今日から少しずつでも、英語の音に触れる時間を作ることが卒業への第一歩である




